【取材】ダンサーATSUSHIが語る「犬たちとの未来」ープロジェクト『POWER of LIFE』
Dragon Ashダンサー、そしてソロダンサーとして世界で活動している一方で、表現者として“生きることの素晴らしさ”を伝えるプロジェクト「POWER of LIFE」を主宰しているATSUSHIさん。
その一環としてアニマルシェルターの存在を広める活動を行ない、10年以上が経つ。
「救えるべき命は救いたいじゃない? それは人間だけでなく動物たちも」
そう語るATSUSHIさんの活動と、彼の魅力に迫るー。
目次
プロジェクト「POWER of LIFE」とは
POWER of LIFEとは、2009年にATSUSHIさんが立ち上げたプロジェクト。
ダンサーとして活動するATSUSHIさんが、表現者という立場から “生きることの素晴らしさ”を伝えることを目的としている。
具体的な活動は「1.表現活動 2.アニマルシェルターの支援活動 3.震災復興支援活動」の大きく3つ。
物事をフラットに捉え、大人も子どもも動物も、すべての命を平等に見ているATSUSHIさん。
そんな彼だからこそ、アニマルシェルターの支援活動においても“特別すぎないやり方”を貫いている。
プロに失礼のないように
POWER of LIFEの活動として、アニマルシェルターの支援活動を行なうようになったきっかけは、2002年まで遡る。
「俺が初めて犬と暮らすようになったのは2002年のこと。まさか自分が犬と暮らすなんて思ってもいなかったけど、そのときに保健所や殺処分のことを知ったんだよね。
実際にシェルターを訪れたとき、当時何も知らなかった俺は、きっと捨てられた犬たちは多くの人間を恨んでいるんだろうと思ってた。
でもさ、ほとんどの犬たちが輝いていて“生きようとする目”をしていたんだよ。
純粋で無垢な犬たちは、人を恨むとかそんなんじゃなくて、とにかく生命力に溢れていた。
すごく考え深くてずっと心の奥底に引っかかっていたんだけど、言葉で言い表せられるものではない。
俺は表現者だし、そもそも言葉で伝えるのがあまり得意じゃない。
『何が表現したいんだろう』って考えてたどり着いたのが、命というキーワード。表現者として、アートとして命を表現しようと思ってPOWER of LIFEを立ち上げたんだよね。
救えるべき命は救いたいじゃない? それは人間だけでなく動物たちも。
せっかくプロジェクトを立ち上げたんだから、表現者としてできることをしようと。
アニマルシェルターの支援活動に関していえば、犬を保護するプロの方は存在するわけで。
俺が中途半端にやるのはプロの方々に失礼だと思ってさ。
だからアートや写真展を通して、シェルターの存在を知ってもらえればと思ったんだよね。
世間に存在を知らせることが、俺にできる役割りなのかなって」
間口を広げたい
POWER of LIFEのサポーターズには、ミュージシャン、有名アスリートなど多くの著名人が名を連ねている。
誰にもオファーをしておらず、全員ATSUSHIさんの友人で自然に集まったという。
「たくさんの友人に協力してもらって、シェルターの存在を知ってもらうための写真展を開いたんだよね。
アスリートやミュージシャンの写真を中心に、その一部に保護犬や猫たちの写真がある。
俺もひねくれてるのかなぁ(笑)、本来なら動物たちの写真だけにするべきなんだろうけど、どうしても“お涙ちょうだい”になるのはいやで。
それから、シェルターの存在を知ってもらうために間口を広げたいという思いもあったんだよね。
たとえばファンのミュージシャンやアーティストの作品を見たくて、写真展に入ってくる。
その中で偶然保護犬や保護猫たちの写真に出会い、存在を知る。
一人でも多くの人に存在を知ってもらうためには、この方が良いのかもなぁと思ったんだよね」
シェルターの存在も広まった今、その次へ
今より10年以上も前から、アニマルシェルターの存在を広める活動をしているATSUSHIさん。
時代とともにペット雑誌やペット専門のWebメディアも増え、少しずつ保護犬たちの存在が認知され始めていることに喜びを抱いているという。
「10年前はアニマルシェルターって言葉自体知らない人が多かったけど、時代とともにその言葉もメジャーになってきたし、本当に嬉しいことだよね。
今まで表現者としてできることをやってきたけど、こうやって取材をしてもらって言葉で伝える機会も増えて、ありがたいなって思うよ。
引きつづきシェルターの支援活動はしていくけど、実は動物だけにこだわっているわけじゃないんだよね。
いずれは貧困問題とか、世界も視野に入れたいと思ってるよ。
そもそもPOWER of LIFEの趣旨は“生きることの素晴らしさ”を伝えることだし、何かできることがあるなら、その時その時で直感的に動くことを大切にしてるかな」
東日本大震災での活動
生きる素晴らしさを伝えるにあたり、動物だけにこだわっているわけではないと語るATSUSHIさん。
2011年3月11日に発生した東日本大震災においても、“救えるべき命”という点で行動をした。
「3.11のときは、本当にどうしていいかわからなかった。発生した2日後にアスリートの友人から連絡がきて『ATSUSHI、何かやらないのか?』と。
さっきも言ったけど、俺はレスキュー隊ではないし、その道のプロは存在する。
あくまでプロの方々に失礼のないように、自分でできることをやるべきだと思ったんだよね。
東北へ行って炊き出しをしたり、迷子になった犬たちを元の飼い主さんに届ける活動をしたり。
その時は犬も人も新しい家族を探しているわけではなくて、元の飼い主さんを探していたんだよね。
アスリートたちの力も借りてネットでも呼びかけたりして、何頭か元の飼い主さんを見つけたかったよ。
2011年は200日間くらい東北へ行ったし、今でも住民の方や市役所の方々とも仲良くさせてもらってるよ。
市役所の方も全面的にバックアップしてくれて、俺みたいな男が市政功労表彰を頂いたりしてね(笑)」
ふとした出会いを作る
炊き出しや飼い主を探す活動に加え、東北沿岸部でライブも行なっていたというATSUSHIさん。
それには“ふとした出会いを作りたい”との思いがあったという。
「当時沿岸部で何度かライブもしたんだけど、そこにはたくさんの出会いがあって。
大阪にある『日本アニマルトラスト』という保護団体さんと仲良くさせてもらってるんだけど、彼らの活動は本当にアグレッシブ。
日本アニマルトラストは、当時東北で飼い主さんがいなくなった犬たちを、遠い大阪で預かったりしていたんだよね。
俺が宮城県の塩竃市でライブをすると言ったら、その犬たちをわざわざ大阪から連れてきてくれてさ。
ライブやフェスって、犬に会うことを目的に来ているわけではないじゃない。単純に楽しみに来たり、束の間の現実逃避だったり。
そんな人たちが、偶然にもそこで犬に出会うわけ。ふとした出会いというか、マッチングじゃないけど、ライブがきっかけで新しい飼い主さんが見つかった犬もたくさんいたよ。
これは表現者だからこそできたのかもしれないし、まさにPOWER of LIFEの趣旨とも合致したかな。
当時やったライブをきっかけに、今でも毎年宮城県塩竃市で『GAMA ROCK FES』を開催することにも繋がったしね。
3.11はもちろん悲しさが大きかったけど、感動もたくさんあった。これは言葉では表現できないよ」
偶然の出会いは、人生のターニングポイントになり得る
ATSUSHIさんご自身も「抽象的なもの」と語るPOWER of LIFEの活動。
命というテーマと向き合う以上、それは当たり前のことなのかもしれない。だって、答えはないのだから。
ただ、多くの活動の中で共通していることは、間口を広げることでたくさんの人々に「考えるきっかけ/気づくきっかけ」を与えているということ。
写真展ではミュージシャンやアーティストの作品の中に、あえて保護犬や保護猫の写真を織り交ぜたり、ふとした出会いを与える思いで、フェスやライブを開催したり。
本来の目的とは違った形で、偶然出会う喜びや衝撃は、人生を変えるターニングポイントにさえなり得る。
もしもあなたが音楽を聞きたくて訪れたライブの片隅で、偶然にも1頭の子犬が震えていたら何を思うだろうか。
ATSUSHIさんの活動は、遠回りのように見えて“本当に大切なこと”を考えるきっかけを直球的に与えてくれているような気がしてならない。
そしてこれは表現者だからこそできることであり、さらには自分の役割りだと把握しているATSUSHIさんならではの活動なのだと強く感じたのだった。
そしてATSUSHIさんは言う。
「俺は0から1を作ることはできるけど、1を2にすることができない。でもさ、人にはそれぞれ役割りがあるんだよね。みんなで大きくしていって、99が100になるとき。それを全員でできたら、世の中捨てたもんじゃないと思うよ」
編集後記
取材当日、黒い服、黒のサングラスに黒いマスク。まさに全身黒ずくめで現れたATSUSHIさん。
“Dragon Ash世代”の筆者にとってはイメージ通りだったわけだが、「ちゃんと話してくれるのかな」という不安がよぎったのも事実だ。
しかし不安も束の間、モデルブヒと触れ合うATSUSHIさんを見て、「今日の取材は特別なものになる」と直感したのだった。
今回モデルをつとめてくれたのは、里親募集中の『フレ吉102号』。
鼻ぺちゃ犬を中心に保護活動を行なう『ふがふがれすきゅークラブ(ふがれす)』に在籍中だ。繁殖犬として育ち、捨てられてしまった彼だが、飄々としていて今を楽しく生きる力強さや愛嬌に満ち溢れていた。
もちろんこの日、ATSUSHIさんとフレ吉102号は初対面のわけだが、リードを持って散歩する姿や、示し合わせたように休憩する様子をみて“付き合いの長い相棒”にさえ思えた。
まだ散歩に慣れていないフレ吉102号だったが、当たり前のようにATSUSHIさんの後をついて周り「次はどこ行く?」なんて問いかけているようにも見えた。
フレ吉102号のカラダに負担をかけないよう先に撮影を済ませ、フレ吉102号はここで退散。のはずだったのだが……。
フレ吉102号は、休憩室のソファに座るATSUSHIさんの元に飛び乗って寄り添い、そこを離れようとしないのだった。
これには取材陣一同とふがれすのスタッフさんも驚き。たった20分たらずでこんなにもATSUSHIさんに気を許すとは……。
「子どもも犬も、すぐに仲良くなっちゃう」と語るATSUSHIさん。それは同じ目線で世界を見ようとする意識が、そうさせていると思えてならない。
事実、子どもや犬と話すときはその場にしゃがみ、その人の目線に合わせることを心がけているという。
相手が誰であろうと尊重し、どの命も平等に見て行動すること。その大切さを、今回の取材を通して改めて教わったのだった。
おまけ
ATSUSHIさんが思う、フレブルの印象
犬というジャンルを超えた唯一無二の存在。犬なんだけど、フレンチブルドッグはフレンチブルドッグ。そして、フレ吉102号はシンプルに“いいヤツ”。
これをきっかけに早く新しい家族が見つかるといいな、というハートフルなコメントも。
ATSUSHI -PROFILE-
1979年2月7日東京生まれ。1996年にストリートダンスを始め、様々なイベントやライブに出演。2001年から、Dragon Ashのメンバーとして活動し、数多くのビッグフェスでのライブや全国ツアー、そしてレコーディングなどを経験。2006年にソロダンサーとしても国内外の各地で活動開始。数多くのアーティストとセッションライブを行ない、近年では、美術館や博物館、社寺などの歴史的建造物でも舞踊を行い、各地の伝統芸能ともコラボレーションも行っている。
ファッションショーにも多数出演し、パリコレにも出演。海外では、アジア、ヨーロッパ、アメリカにてパフォーマンスを行ない、ロシア文化フェスティバルのアンバサダーを務めた経験もある。
2009年に生命力の素晴らしさ尊さを伝えていくプロジェクト「POWER of LIFE」を発起し、代表として活動開始。2011年3月11日の東日本大震災以降は、宮城県塩竈市にて野外フェスティバル「GAMA ROCK FES」を2012年に立ち上げ、毎年9月に開催している。
今までの様々なステージで得た経験により、ジャンルや枠にとらわれない踊りと体をいかしたダイナミックな踊りを信条とし、ダンサーとして、独自な表現者の道を進んでいる。
photo:Tadayuki Aritaka
text:Chika Yugawa
※この記事は「BUHI vol.55」からの転載です。一部加筆・修正をし、公開しています。
特集「新・フレンチブルドッグの特別な世界」 ◎フレンチブルドッグのパーソナリティ 特別編集「いつのことだか思い出してごらん」
BUHI 2020年夏号 Vol.55
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わたしたちのフレンチブルドッグライフが、まぎれもなく愛にまみれていて、
みんながそんな毎日を生きている。さあ、思い出話に花を咲かせましょう。
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