【取材】9歳で脳腫瘍を発症し「4年7ヶ月間」生存。フレンチブルドッグ・桃太郎の奇跡と軌跡
愛犬が「脳腫瘍」と診断されたとき、言葉にできない絶望感を味わうことと思います。筆者も脳腫瘍で愛犬が旅立ったひとり。だからこそ、どれほど厄介で困難な病気かを理解をしているつもりです。「発症から1年生存すれば素晴らしい」とされるこの病気。
ところが、フレンチブルドッグの桃太郎は9歳で脳腫瘍を発症し、なんと4年7ヶ月間も生き抜いたのです。旅立ったときの年齢は13歳と11ヶ月、レジェンド級のレジェンドでした。さらには、治療後3年間は一度も発作が起きなかったといいます。
この事実はフレンチブルドッグだけでなく、脳腫瘍と闘う多くの犬たちに勇気と希望を与えるに違いありません。桃太郎のオーナーである佐藤さんご夫婦に、治療の選択やケアについて詳しくお話しをうかがいました。
目次
- 知っておくべき。「犬の脳腫瘍」事前知識
- 脳腫瘍発覚から4年7ヶ月生存。「桃太郎」の奇跡と軌跡
- 「犬が手術!?」先代犬との大きな違い
- 初めての発作と「脳腫瘍」の診断
- 最終的に選んだのは放射線治療
- 放射線治療は意外にもスムーズだった
- 放射線治療後「3年間」発作なし。
- 突然の出来事。発作の再発
- 最新の情報を集める重要性
- 「頭を冷やす」ことで発作を軽減
- 細かい記録が愛犬を救う
- 旅立つまでの8ヶ月間は、再び発作を抑制できた
- 「桃太郎が、生涯で最後の犬です」
目次
知っておくべき。「犬の脳腫瘍」事前知識
「犬の脳腫瘍」はフレンチブルドッグが罹りやすい病気のひとつ。
初期症状がわかりにくく「初めてのけいれん発作」で気づくケースが多いため、すでに進行している場合も少なくありません。
愛犬が脳腫瘍と診断された場合、考えられる治療は大きく4つ。
①薬で発作をおさえる保存療法
※発作は回数を重ねるたびに脳にダメージを与えるため、とにかく発作を起こさないことが最優先。そのため、以下の3つを選択しても併用するケースが多い。
②放射線治療
③抗がん剤治療
④外科手術
※ただし犬の脳外科手術は、極めて困難のため、ほとんど実施されない。
専門医を除いた多くの獣医師は、薬で発作をおさえる「保存療法」を提案します。
たしかに愛犬への負担は少なく済みますが、「寿命」という観点からすると、残念ながらそれほど期待できるものではありません。
脳腫瘍とは、それほど厄介な病気なのです。
とはいえ犬の場合、脳の外科手術は極めて困難で、抗がん剤治療は体力を保つのが難しい。また、放射線治療は麻酔を伴うことから、初めから選択肢に入れないご家族が多い印象を受けます。
愛犬が脳腫瘍と闘うご家族は、最初の壁として「どの治療法を選択すべきか」にぶち当たるのです。
脳腫瘍発覚から4年7ヶ月生存。「桃太郎」の奇跡と軌跡
東京都で暮らす佐藤さんご夫妻の愛犬は、フレンチブルドッグの桃太郎。
桃太郎は9歳の頃に脳腫瘍を発症しました。一般的に、発症から「1年生存すれば素晴らしい」とされる中で、なんと4年7ヶ月間も生き抜いたのです。
2021年9月27日に虹の橋へ向かいましたが、当時の年齢は13歳11ヶ月。フレンチブルドッグにおいては、レジェンド級のレジェンドでした。
桃太郎のオーナーである佐藤さんご夫妻に、治療の選択やケアについてインタビューを行いました。
「犬が手術!?」先代犬との大きな違い
ーーフレンチブルドッグを迎えたのは桃太郎ちゃんが初めてだったのでしょうか。
佐藤さん(ご主人):
そうだね、フレンチブルドッグは桃太郎が初めてです。妻がずっとフレンチブルドッグ(パイド)を迎えたいと言っていたんですよ。
わたしは小さい頃犬と暮らしていましたが、桃太郎が来るまではフレンチブルドッグとパグの区別もつかないくらい知識がなくて。ずいぶんと面白い顔の犬だなぁと思いました(笑)。
でも迎えてみたらびっくり。こんなに人間みたいな犬がいるのかと。今でも背中にチャックがついていて、それを開けたら小さなおじさんが出てくるんじゃないかと思っています(笑)。
ーー (リビングを見渡すと)桃太郎ちゃんの他に、柴犬ちゃんのお写真もありますね。
佐藤さん:
桃太郎が来る前は柴犬の児太郎と暮らしていてね、彼も17歳まで生きてくれました。予防接種以外に病院へ行ったことがないくらい、病気とは無縁の子で。
桃太郎は4歳の頃に肥満細胞種になって、大学病院で手術をしているんです。だから「手術が必要」と聞いて、それだけでびっくり。
桃太郎が9歳で脳腫瘍を発症したときも、恥ずかしながら知識がほとんどなく「犬も脳腫瘍になるのか」といった具合でした。
初めての発作と「脳腫瘍」の診断
ーー桃太郎ちゃんは9歳で脳腫瘍を発症されたんですよね。初めて発作が起きたとき、どのような状況だったのでしょうか。
佐藤さん:
初めて発作が起きたのは2017年2月10日で、当時9歳。今思えば前日の夜から兆候がありました。
桃太郎は一度クレートに入ると朝まで眠って起きてこないんだけど、その夜はクレートを出て私たちの足元で不安そうにしていたんです。「なんだかおかしいな…」って妻とも話していました。
翌日も朝から落ち着きがなく、ずっとリビングを歩き回っていたんですよ。すると突然、口から顔の痙攣(けいれん)が起こって、流涎(りゅうぜん※よだれを流すこと)。
意識はあるけど体のコントロールが効かないことに戸惑っているようで、失禁、脱糞。
この日の夜は、同じような発作が間をおかず4回発生してね。すぐに掛かりつけ医に連絡をして抗てんかん薬のフェノバールを処方してもらい、その日の発作は治まりました。
ーー初めての発作は本当に驚きますよね…。このとき「脳の病気かもしれない」と確信はあったのでしょうか。
佐藤さん:
「てんかん発作」という病気は、犬友達が患っていたので知っていたんですよ。でも桃太郎の場合は初めての発作が9歳だったので、「てんかん発作ではないだろう」(掛かりつけ医)と。
この病気は一生薬を飲み続けなければならないと聞いていたので「てんかん発作じゃないなら良かったな」くらい気軽に考えていたと思います。
でも別の病院で診てもらったところ「脳腫瘍の疑いがある」と。この時ですよ、犬も脳腫瘍になるのか…と思ったのは。
この時点では精密検査(MRI)を行っていないので、確定していたわけではありませんけどね。
ーーそこからどのように治療方針を決めていかれたのでしょうか。
佐藤さん:
まずは自分で病気を理解すべきだと思って、インターネットで色々と調べました。いかに医師の説明を的確に理解して、疑問点をクリアするかが大事だと思っていましたから。
これは桃太郎が肥満細胞種の手術をしたときに痛感したことです。でもね、『犬 脳腫瘍』で検索すると、個人の方のブログがほとんど。
「麻酔リスクがあるためMRIは受けない」と言っている方も多くて、保存療法を選択している方が多かったんです。
放射線治療をした子のブログも拝読したけど、毎回麻酔が伴うことや、治療途中で亡くなってしまったり、残念ながら治療をしても一年ほどで亡くなってしまう子が多くてね…。
当時の桃太郎は9歳半でシニアだし、万が一脳腫瘍だとしても、皆さんと同じように保存療法を選択しようと漠然と考えていたと思います。
ーー最終的に、どの治療を選択されたのでしょうか。
佐藤さん:
自分なりに調べた上で、改めて掛かりつけの動物病院へ行ったんです。すると先生に「脳の病気に詳しくないから、専門医を受診した方が良い」と言われて。
今思えば、正直に言っていただいて良かったなぁと思います。
そこから専門医がいる大学病院を予約して頂き、的確な治療法を見つけるためにもMRIを撮ることにしました。
その大学病院には、犬の「てんかん」を専門に研究しておられるH先生がいらしたので、それも運が良かったと思います。
診断の結果は、やはり脳腫瘍。その中でも『右梨状皮質の神経膠腫(グリオーマ) グレードⅡ』という種類でした。
H先生は専門医だからやっぱり詳しくて、先生によれば『フレンチブルドッグでの同様なMRI所見をもった症例で、放射線治療(+抗がん剤)に良く反応したので、放射線療が良いと思われる』と。
説明も非常にわかりやすかったので、この時点で放射線治療を予約しました。
ただ、私自身が治療について十分理解できていなかったので、そこから再び、脳腫瘍と放射線治療に関する情報を調べましたね。
最終的に選んだのは放射線治療
ーーやはり「個人ブログ」を中心に調べることになったのでしょうか。
佐藤さん:
いいえ、H先生のお話しをうかがってからは、論文や書籍を中心に調べました。犬だけでなく、人間に関するものもたくさん読みましたよ。
動物の医療は、人間が行っているものをベースに取り入れるケースが多いですから。さっきも言ったけれど、ブログはどうしてもネガティブな情報が多くなってしまうんですよ。
みなさん毎日書かれる余裕がないでしょうから、どうしても思い通りに進まなかったときや、不満があったときに書くことになってしまう。だから自然とネガティブな情報が溢れてしまうと考えたんです。
私はとっくに仕事を引退しているけど、昔は海外で働いていたこともあったので、海外の論文なんかも読みました。
中でも心が動いたのは、フレンチブルドッグで脳腫瘍を患っている子の英文論文『Long-Term Survival in a Dog with Anaplastic Oligodendroglioma Treated with Radiation Therapy and CCNU』。
この子が桃太郎と年齢や性別、病名(右梨状皮質の神経膠腫(グリオーマ) グレードⅡ)まで全て一致していたんです。
この子の場合は放射線治療をして、その後に抗がん剤治療。それで「910日間生存」とあって、非常に前向きになれました。
だけど、いざ桃太郎が放射線治療を受けるとなると、論文の中にも疑問点もいくつかあってね。それを全て書き出して、H先生にメールで質問をしたんです。
するとすぐに丁寧な長文で返信してくださって。何度かメールでやり取りをさせて頂くうちに、今後の治療への道筋がある程度理解できたので、積極的に放射線治療を受けることに決めました。
放射線治療は意外にもスムーズだった
ーー放射線治療は毎回麻酔が伴いますが、治療中はどんな様子だったでしょうか。
佐藤さん:
私も治療を開始して初めて知ったんだけど、放射線治療で打つ麻酔は、MRIの時よりも軽いようなんです。
桃太郎もMRIを受けた後は5時間ほど病院で過ごして、帰宅してからもぼーっとしている状態がつづいたんだけど、放射線治療のときは2時間ほどで歩いて戻ってくるときもありました。
麻酔後の様子は、MRIとはずいぶんと異なる印象でしたね。
桃太郎の場合、体の負担を考えて『週1回の計6回』を選択したんだけど、事前にこれを知っていれば『週2回の計12回』を要望していたかもしれません。
回数が多いほど術後の効果があるという研究結果はないようだけど、それでも一回当たりの線量を少なくすれば、それだけ晩発障害のリスクを減少させられるはずだと思ったので。
ーー先生方も治療の話しが中心になりますから、どうしても細かい部分は伝え忘れることがありますもんね。
佐藤さん:
そうだね。そういえば、費用についても驚いたことがあったなぁ。
病院によって異なるだろうけど、桃太郎が通った大学病院では放射線治療の値段が5回目から格段に安くなるんですよ。
レシートを見たときに何かの間違いじゃないか、と受付の方に聞いたら、回数を多く受けられるように5回目以降は安くなっていると。
それも初めから言っといてくださいよ、と思いましたけど(笑)。
先生も秘密にしているわけじゃないし、気になることがあったら細かいことも含めて事前に質問した方が良いと思いますね。
費用のことなんかは受付の方も知っているでしょうから。
放射線治療後「3年間」発作なし。
ーー放射線治療を終えて、桃太郎ちゃんの様子はいかがだったでしょうか。
佐藤さん:
無事治療を終えて、そこからは投薬で発作を抑えていきました。脳腫瘍の場合、とにかく発作を起こさないことが最優先だから。
投薬はどの治療を選んでも続けていくことになると思いますからね。
でもね、それから3年間、一度も発作は起きなかったですよ。抗てんかん薬の減量にも成功して、飲まなくて良くなった薬もあるくらい。
H先生の場合は、抗てんかん薬のコンセーブ、脳圧を下げるイソバイドは、どんな時も必ず処方していたかな。発作が起きなかった3年間も、この2つだけは飲み続けていました。
余談ですけど、桃太郎はイソバイドが大嫌いでね、一口飲んで大暴れ。それはもう大変でしたよ(笑)。
H先生に相談したら、その代わりとなるグリセリンを処方してくださって、ようやく落ち着いたけどね。
イソバイドが苦手な子は多いみたいだから、先生に相談してみると良いと思いますよ。
ーー3年間も発作が起きなかったのは、非常にすごいことだと思います。体調の変化などもなかったのでしょうか。
佐藤さん:
脳腫瘍そのものが原因の変化はなかったけど、薬をジェネリックにしたことで一時的に調子が悪くなったことはありましたね。
これはジェネリックが良い悪いではなく、いわゆる先発医薬品との切り替えにも注意しなければならない、ということです。
私も知らなかったんだけど、ジェネリックと先発医薬品は成分が同じでも、粒子の大きさや製造過程の影響で「全く同じものはできない」らしいんですよ。
スポーツ飲料なんかでも、材料は同じでも全く同じ味にならないのと同じですよね。
つまり、体内に入って細胞に行き渡るまでに時差があったりするので、切り替えるときは注意すべきだと教わりました。
もちろん逆も然りで、ジェネリックを最初に処方されて先発医薬品に切り替えるときも同じ。
もし別の病院で薬だけもらいに行く場合なんかは、いつもと違う薬だったら先生に確認した方が良いかもしれません。
ーー話しは少し戻りますが、そもそも放射線治療を選んだ最大の理由は何だったのでしょうか。
佐藤さん:
「QOLを維持しつつ少しでも長く一緒に暮らしたい、少しでも発作を起こさせないため腫瘍そのものを治療する」もうこれだけですよ。
発作は起きるたびに脳にダメージを与えますでしょ? すると認知機能が低下したり、長くつづいた場合(重積発作)は亡くなってしまいますから。
発作が起きないことで、運動神経や体力、食欲の維持に繋がり、結果QOLの向上になると考えているんです。
それに、発作を起こしている姿は見ている私たちも辛いですからね…。
突然の出来事。発作の再発
ーーその結果発作を抑制し、QOLを保ちながら大幅に寿命を伸ばしたわけですもんね…! 3年後の桃太郎ちゃんの様子はいかがだったでしょうか。
佐藤さん:
治療から丸3年ほど経った2020年3月31日から翌日にかけて、発作が再発してしまいました。
突然のことだったので不意を突かれた感じがあって途方にくれたけど、お世話になった大学病院へ連絡すると「今すぐ来院できれば診察する」と回答があったので、急遽向かいました。
その場でイーケプラ「1・1/4錠(312mg)」を服薬させて、コンセーブの増薬(25mg→50mg)とイーケプラ3日分を処方してもらいました。
ところが桃太郎には効きすぎたようで、傾眠状態になってしまって。
H先生と相談し、一旦この量で与えるのを中止して、そこから適切な量と方法(回数、時間)を探る試行錯誤が始まりましたね。
ーー再発からの治療方針はどのように決められたのでしょうか。
佐藤さん:
まず発作が再発した原因を探るには、MRIを受けなければならないんですよ。
仮にMRIをして脳腫瘍の再発が原因だったとしても、投薬以外の対処策は、再度の放射線治療か、抗がん剤治療。
私もこの時知ったんだけど、放射線治療は前回から一年以上経過していればもう一度受けられるそうなんです。
でも、この時桃太郎は12歳半。「桃太郎が桃太郎らしく」あるために、意識障害を誘発するリスクだけは避けたいと思いました。
それから体力を奪う治療は余命を縮める可能性もあると。MRIも放射線治療も時間の長短はあれど全身麻酔に変わりはないし、前日の夕飯は抜きで、当日も麻酔後一定時間経過するまでは食事ができないんです。
これは食べることが生き甲斐の桃太郎には辛いことですし、食事がとれないと体力も低下してしまいます。
年齢や今後のQOLを考えた結果、仮に脳腫瘍の再発だとしても、投薬治療(保存療法)でけいれんを抑制できればそれでよしとすることにしました。
最新の情報を集める重要性
ーー投薬治療を進めるにあたって、何か心がけていたことはありますか。
佐藤さん:
どの医療もそうだけど、てんかん治療においても日々進歩しているんですね。
発作を悪化させないためにも、常に最新のてんかん治療の情報を得るように努め、気になる薬はH先生に質問しました。
当時非常に参考になったのは、この書籍や文献です。
<書籍>
①「ホームドクターが必ず知っておきたいてんかんの正しい診断と治療」
(麻布大学附属動物病院 斎藤弥代子)
②「International Veterinary Epilepsy Task Force によるコンセンサス提案: ヨーロッパにおける犬のてんかんの薬物療法」
(監訳 麻布大学附属動物病院 斎藤弥代子・日本獣医生命科学大学 長谷川大輔)
③「犬と猫のてんかん読本〜ペットのてんかんとつきあってゆくために 第3版」
(日本獣医生命科学大学 長谷川大輔)
<文献>
(群馬大学医学部 医学系研究科)
中でも長谷川教授の『犬と猫のてんかん読本』は、基本的に獣医師向けながら、素人の飼い主にも解りやすくまとまっています。
第2版から第3版に改定されるときも、最新情報が相当盛り込まれるなど、内容が大幅に増補されました。個人的にはバイブルであり、最も役立った本です。
今の時代はインターネットで無料で読めますから、てんかんと闘う飼い主さんはご覧になってみると良いかもしれません。
「頭を冷やす」ことで発作を軽減
ーー最新の情報を探る中で、新しい発見などはあったでしょうか。
佐藤さん:
私は桃太郎が発作を起こしている姿を見るのが辛くてね。
意識を失う発作は噛まれる可能性があるから近づいてはいけない、発作の様子を動画で撮影する、なんて言うけど、何もしてあげられないのは非常にもどかしくて心苦しい。
「発作中に何かできることはないか」と思って調べていたら、体を冷やすと良いと書かれた記事で見つけたんです。
そこで発作の震源地である脳を直に冷やすのはどうだろうと調べたら、人間のそれにまつわる論文が見つかりました。
そこから保冷剤(凍結x1、冷蔵x2)を用意して、発作の起き始めにアゴの下に凍結分、頭の両側に冷蔵分ですっぽり頭を覆うようにしたんです。
すると、部分発作から全般発作に移行する前に発作を止めることができました。
これに気を良くして、発作の都度冷却を試みたところ、全般発作への移行を必ずしも止められなくても、発作時間は短くなるケースが多かったと思います。
あまり短縮されない時でも、発作後正常に回復する時間は大幅に短くなった印象があります。
ーーその情報は初めて聞きました。積極的に取り入れると良いかもしれませんね。
佐藤さん:
頭を冷やすことについてH先生に聞いてみたところ、「冷やして発作を止めるというのは非常に有効な方法であると知られていて、人の場合脳内に薄い冷却装置を埋め込むという事が現実的に考えられている」と返答がありました。
ただし、桃太郎のように側頭筋や頭蓋骨が分厚い動物で、表皮を冷やしてどれだけ脳が冷えるかと考えると、どれほどの冷却効果があるのかは少々疑問とのこと。
だけど、効果がある実感があって簡単にできるのであれば、積極的に行って良いとのことでした。
飼い主としては非常に効果があると感じたので、できる限り発作の前兆を捉えて、都度対処するようにしていましたね。
何より自分の手で発作の負担を軽減している実感を持てたので、私自身の心の支えにもなっていたと思います。
細かい記録が愛犬を救う
――佐藤さんのお話しをうかがっていると、非常に細かく記録されている印象があります。当時、記録などはつけていたのでしょうか。
佐藤さん:
もちろんです。初めて発作を起こしてから旅立つまでの4年7ヶ月間、毎日欠かさず記録をつけていました。
特にけいれんが再発してからは「日時、天候、薬の量、食事内容、水分量、排泄量、行動」などできる限り細かく。
発作を起こさない・悪化させないためには、小さな変化を見逃さずに、発作が出る時のクセ(前兆)みたいなものを把握しておくことが大事だから。
桃太郎の場合は就寝直後の時間に発作が起きやすかったんだけど、眠ってから5分以上経つと朝までグッスリ。
記録をつけていると、こういうタイミングも少しずつわかってきますからね。
介護が必要になってからは「尿」を毎日キチンと出す事は特に大事な要素ですね。体内の毒素は尿からしか排出されないから、溜まっていると腎臓を悪くしちゃう。
便は数日間出なくても大きな問題はないけれど、尿は必ず毎日出さないといけないんですよ。毎回「どれだけ出たか」を測って、メモをしていました。
一日に普段出る量に達していない時は、病院へ行って先生に促してもらってね。
あれは飼い主がやってもなかなか上手くできないんだけど、さすが先生は手慣れておられて、お腹を押すとスーッと出ていたから。
――記録のつけ方も大変参考になりますね。食事面で意識していたことはあるのでしょうか。
佐藤さん:
食欲があるときは問題ないんだけど、少しずつ落ちてくるでしょ。
これもH先生に相談したんだけど、とにかく食べられるものを食べさせてあげることが大事だと。やっぱり食べないと体力が落ちてしまいますから。
よく癌には炭水化物(糖質)が良くないって言うけれど、そんなことは言ってられない。
ドライの療法食を食べなくなってきたときは、ムース状で高栄養の療法食に替え、ヨーグルトや生肉をペースト状にしたもの、水分としてカルピス、飲む点滴と言われる甘酒など、いろいろ与えていました。
特にイソバイド(グリセリン)は利尿作用があるので、脱水を防ぐためにも水分は意識しましたね。これももちろん、一回あたりどれだけ飲んだかを記録していました。
旅立つまでの8ヶ月間は、再び発作を抑制できた
――発作が再発してからも1年半生き抜いたんですよね…。桃太郎ちゃんのパワーはもちろんのこと、佐藤さんご夫婦の努力の賜物だと思います。
佐藤さん:
私も10年前に現役を引退しているから、ここまで向き合えたんだと思いますよ。
以前は仕事・仕事の日々だったけど、今は時間がたっぷりあるから(笑)。
銀行で企業・プロジェクトリスクを詰める仕事に慣れていましたから、病気と闘うことにおいてもこれが役立ったのかもしれません。
「桃太郎が、生涯で最後の犬です」
佐藤さん:
でもね、発作は再発してから10ヶ月間つづいたけど、薬の効果と副作用のバランスを見ながらトライ&エラーを繰り返した末、ピタリとなくなったんですよ。
桃太郎が旅立つ前の8ヶ月間強は、発作がなかったのは嬉しい出来事でした。
昼夜の逆転や夜鳴きの問題もなかったし、最後の日までカートで散歩をするなど規則正しい日常の生活サイクルをおくらせてあげられたのは、飼い主にとっても救いであり喜びでしたね。
13歳と11ヶ月。このまま14歳を迎えるのかなと思っていたけれど、よく頑張ったと思いますよ。
小さい頃からいろんな犬と暮らしてきたけど、フレンチブルドッグはやっぱり特別ですね。あんなに人間らしい犬はなかなかいません。
私も妻も70歳を超えていますから、桃太郎が生涯で最後の愛犬だと思っています。これから10年、20年後に愛犬の介護をするとなると、その責任は持てませんから。
今は孫たちと、桃太郎や先代・児太郎の思い出に囲まれて幸せに過ごしています。
<編集後記>
今回取材に至ったのは、佐藤さんから頂いた一通のメールがきっかけでした。
筆者の愛犬(フレンピー)が脳腫瘍を患い、それをFrench Bulldog Lifeで公表したところ「力になれることがあれば」とメールをいただいたのです。
そこからやり取りをさせて頂く中で、飼い主自身がいかに病気や治療の知識を理解することが重要かを学び、これを皆さんにもお届けしたいと思いました。
脳腫瘍は日々症状が変化します。だからこそ、飼い主のスピーディーかつ的確な判断が大切になるのです。
もし愛犬が初めてけいれん発作を起こしたら、かかりつけ医だけでなく、同時に大学病院(専門医)を予約することをお勧めします。何せ大学病院は、予約がとれるまで1ヶ月以上かかることもありますから。
最後に、佐藤さんに取材をお引き受けいただいた理由をうかがうと、このような答えが返ってきました。
佐藤さん:
たしかにフレンチブルドッグのような短頭種は麻酔リスクがあると言うけれど、それを理由に他の選択肢をはなから捨ててしまうのは勿体ないと思っているんです。
今は医療も進歩していますし、プロの麻酔科は非常に馴れています。
もちろん年齢や体調によってリスクの大小はあると思いますが、『うちの子の場合はどうなのか』を可能な限り専門医に確認することが大切だと感じています。
私が伝えたかったのは、選択肢のひとつとして放射線治療もある、ということです。もちろん愛犬の病状や費用の面もありますから、最後に決められるのはご家族です。
ただ、できる限り選択肢を増やした上で決めることも、悔いのない最後を迎える上で大切なように思います」
★2万字に及ぶ『全記録』公開中
佐藤様のご了承を得て、桃太郎の闘病生活の『全記録』を公開しています。
治療の経緯や投薬、介護生活など、およそ2万字にわたる記録。ぜひご参考くださいませ。
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フレブルLIVE -
【肉球の香りがするビール、誕生】イラストは千原ジュニアさん【フレブルLIVEで先行販売!】
『French Bulldog LIVE 2024(フレブルLIVE)』は、11/9(土)-10(日)の2days!
今年は例年以上に反響があり、二日間ともに駐車場付きチケットがSold outとなりました!
年々パワーアップしている「フレブルLIVE」ですが、今年はオリジナルのクラフトビールを制作。
世界初・肉球の香りがするビールで、その名も「Paw Pad Ale」。
パッケージのイラストは、なんと千原ジュニアさんが手がけてくださいました。
フレブルLIVEにて、先行販売いたします!
フレブルLIVE
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