【ペットロス】なりやすい人の特徴は?医療機関を受診すべき症状は?医師が解説【チェックリスト付き】
初めて会ったその日から、愛おしくて愛おしくて、そばにいてくれるだけで幸せだった愛ブヒ。そんな特別な存在を喪(うしな)ってしまったら……。“ペットロス”は、誰しもがなりうる心の病気です。
しかし、我が子との別れを悲しまない人はいません。では、どこからがペットロスで、どのタイミングで医療機関を受診すべきなのでしょうか。『虹の森クリニック』院長であり、精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医である坂野真理先生が解説します。
ペットロスの症状とは?
楽しい時も辛い時も、一緒に暮らしてきた愛ブヒ。あなたにとって家族も同然ですよね。
そんな愛ブヒが急に亡くなったり、離れて暮らさなければならなくなった時、ペットを失ったことに大きなショックを受けてしまう人もいるでしょう。
その喪失感から抜け出せずに、ペットロスになってしまう人が近年増えています。
そんなペットロスの症状には、どんな症状があるでしょうか(*1)?
大きく分けると、次の3つの感情に苦しむことを指します。
(1)悲しみ
ペットロスの症状としてまず挙げられるのは、「悲しみ」の感情です。
例えば、
・ペットを失ったことがとても悲しく、寂しい
・「ペットのいない自分の人生なんてむなしい」と感じる
・ペットに会いたい気持ちでいっぱいになる
・ペットのことを考えると涙がとまらない
・ペットを失ったことを乗り越えられない気がする
・ペットを失ったことに関する悪夢を見る
このような気持ちや状況になるでしょう。
(2)怒り
ペットを失ったことに関する怒りの感情を覚える方もいるでしょう。
例えば、
・自分を置いて先立ってしまったペットや、死という不合理さに対して怒りを感じる
・ペットを救ってくれなかった獣医や他人に怒りを感じる
・ペットを助ける努力をしてくれなかった家族や友人に怒りを感じる
といった気持ちが出てきます。
(3)罪悪感
さらには、罪悪感を覚える方もいらっしゃると思います。
例えば、
・自分が「きちんとペットの面倒を見なかったのでは」と考えてしまう
・「もっとペットのことを大切にすればよかったのでは」と感じてしまう
などです。
これら3つの感情が強いと、ペットロスに苦しむことになります。
<参考文献>
*1 Hunt, Melissa, and Yaniz Padilla. "Development of the pet bereavement questionnaire." Anthrozoös 19.4 (2006): 308-324.
ペットロスが重症化しやすい人の特徴は? セルフチェックをしてみましょう
愛するペットとの別れを経験すれば、誰しもが前述した3つの感情に襲われるでしょう。
しかし、ペットロスが重症化する人と、ほどなくして立ち直る人とは、どこが違うのでしょうか。
ペットとあなたとの絆や愛着関係が深ければ深いほど、ペットロスの症状が強まる傾向にあります(*2)。
あなたとペットの関係について、下記の項目にどれくらい当てはまるか(当てはまっていたか)、チェックしてみましょう。
・家族の中であなたがペットに一番好かれている
・どんなに忙しくてもペットとの時間を欠かさないようにしている
・帰宅した時、ペットがあなたのところへ一番に寄って来る
・友だちのようにペットに話しかけている
・辛い時は、ペットと触れ合うことが多い
・ペットはあなたがうれしかったり落ちこんだりしているとき、その気持ちの変化に気づいているようだ
・ペットはあなたによくなついていて、あなたの言うことをよく聞く
・ペットはしょっちゅうあなたの後を追いかけてくる
・友だちにペットの写真をよく見せる
・ペットが近寄ってきたときにはほとんど無視したりしないでかまってあげている
・ペットにプレゼントを買うことがある
・他の人と一緒にいるより、ペットといる時間の方が好きだ
・あなたのペットはあなたを困らせることが少ない
・あなたにとってペットは家族の一員だと感じている
・寝る時はペットのすぐ近くで寝ている
・勉強したり、テレビを見たりするときでもペットがすぐそばにいてほしいと思う
あてはまる項目が多いほど、あなたとペットの結びつきは強いと言えます。
その分、ペットを失った時の心への影響も大きくなります。
他にどんな人がペットロスになりやすいのかというのはちょっと答えが難しいですが、日ごろからストレスや不安を感じやすい方は、やはりペットロスになりやすいだろうなと思います。
また、ペットではなく人の場合の研究ですが、親しい人が亡くなった時の心理状態について周囲のサポートがない人は、気分の落ち込みなどの症状が長期化したという研究があります(*3)。
他人からは「ペットが死んだくらいで」と軽視されがちなのがペットロスの辛いところでもあります。
愛ブヒを失った辛さを理解してくれ、あなたの気持ちに寄り添ってくれる人、優しい言葉をかけてくれるよき理解者がいると、早くペットロスから立ち直れるかもしれません。
<参考文献>
*2 Wrobel, Thomas A., and Amanda L. Dye. "Grieving pet death: Normative, gender, and attachment issues." OMEGA-Journal of Death and Dying 47.4 (2003): 385-393.
*3 Houwen, Karolijne van der, et al. "Risk factors for bereavement outcome: A multivariate approach." Death studies 34.3 (2010): 195-220.
医療機関にかかるタイミングは?
通常は、時間が経つにつれて悲しみが和らいでくるもの。人間の心は、何か辛いことがあっても、そこからちゃんと回復する力を持っているんですね。
でも、どうしても立ち直れず、本格的なうつ病になってしまう方も中にはいらっしゃいます。
例えば、
・食欲低下、体重減少
・眠れない
・物事に集中できない
・何もする気が起きない
・楽しかったことが楽しめない
・気分がずっと落ち込んでいる
といった症状が1ヶ月以上続いており、その結果、仕事や学校を休まなければならなかったり、生活に支障が出ているという方は、うつ病の可能性があります。
このような場合は、早めに医療機関を受診されるとよいでしょう。
また、特に下記のような症状が6ヶ月~1年以上続いていて、仕事や生活を普通に送るのが難しい状況の場合は、『遷延性悲嘆障がい』(*4)、もしくは『持続性複雑死別障がい』(*5)という病気の可能性があります。
本来この病名は、人が亡くなったときのような場合が前提になっていますが、ペットが亡くなった場合でも当てはまると言われています(*6)。
・悲しみ、怒り、自責感、死を受け入れられない気持ちが続く。
・自分の感情が麻痺してしまったように感じる。
・自分の一部を失ったかのような気持ちが続く。
・何をしていても失ったペットのことがずっと頭から離れない。
・ペットなしには人生は無意味で、孤独でむなしいという感情が続く。
・ペットの後を追って、自分も死にたいという気持ちになる。
・ペットがなぜ亡くなったのかを考え続けたり、遺品を亡くなる前とまったく同じ状況にしておいたりする。一方で、ペットを思い出すものを遠ざけようとするなど、揺れ動く気持ちがある。
・他人を信頼したり、配慮したりすることが難しく感じ、人づきあいを避けて生活する。
・ペットの痛みが自分の痛みのように感じたり、ペットの幻の鳴き声が聞こえたり、ペットの幻の姿が見えたりする。
このような症状の場合も、医療機関の受診をお勧めします。
特にカウンセリングが充実している心療内科、精神科、カウンセリングセンターなどが良いでしょう。
うつ病や遷延性悲嘆障がいは、自分だけの努力で改善するのは難しいもの。ひとりで悩まず、どうか早めに専門家の力を借りてくださいね。
<参考文献>
*4 World Health Organization. International classification of diseases for mortality and morbidity statistics (11th Revision). 2018.
*5 American Psychiatric Association. Diagnostic and statistical manual of mental disorders (DSM-5®). American Psychiatric Pub, 2013.
*6 Lee, Sherman A. "Does the DSM-5 grief disorder apply to owners of deceased pets? A psychometric study of impairment during pet loss." Psychiatry Research 285 (2020): 112800.
医師プロフィール
坂野真理(さかのまり)
虹の森クリニック院長・虹の森センターロンドン代表
2003年日本医科大学医学部卒業。近年は、東京大学医学部附属病院精神神経科(こころの発達診療部)、医療福祉センター倉吉病院精神科等で勤務。英国キングスカレッジロンドンの精神医学・心理学・神経科学研究所において修士号取得。2018年より虹の森クリニック開業。2020年より虹の森センターロンドンを開設。
日本精神神経学会専門医・指導医、精神保健指定医、子どものこころ専門医、日本医師会認定産業医。
虹の森クリニック
鳥取県倉吉市にある精神科、児童精神科のクリニック。
一軒家を改造した「友人の家のように気楽に入れるメンタルクリニック」を目指した外観となっている。
また、併設の福祉施設にて行われる心理療法を診療の中心として、薬に頼りすぎない診療を追求している。
2020年にはメンタルヘルス研究の盛んな英国ロンドンに虹の森センターロンドンを開設するとともに、オンラインカウンセリング事業も開始。全国の子どもから大人まで、幅広くメンタルヘルスに関わる相談を受けている。
住所:鳥取県倉吉市八屋203-7
電話:0858-27-1811
受付時間:火~金 10:00~19:00
土 9:00~18:00
月・日・祝日は休診
HP:https://www.nijinomori-dr.com
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