【軟口蓋過長症などの軟部外科】軟口蓋過長症でも日帰り手術!全国から短頭種オーナーが訪れる【しもむら動物病院・大阪】
フレブルが罹患しやすい病気・ケガの“スペシャリスト”を紹介する特集『もしものときの名医図鑑』。
今回は、フレブルに多い軟口蓋過長症や鼻腔狭窄に代表される軟部外科と呼ばれる分野を得意とする「しもむら動物病院」を取材しました。
下村直(しもむらただし)院長は、ご自身も過去にイングリッシュブルドッグ(バブちゃん)やフレンチブルドッグ(ドンちゃん)を相棒にされており、彼らの身体的特徴や体質について身を以て知っているという点も心強さのひとつです。
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目次
しもむら動物病院 下村直(しもむらただし)院長
他犬種と比較した場合、フレンチブルドッグは病気にかかりやすい犬種だということはすでに多くのオーナーが知っている事実ですよね。
だからこそフレブルオーナーが数人集まれば、いつも話題に上るのが「どこの病院が良いのか」についての情報交換。
この“フレブルに強い病院探し”トークは全国共通だけれど、関西圏、特に大阪でこの話題が出た際に、真っ先に名前が挙がる病院があります。それが、大阪は堺市にあるしもむら動物病院。
一般外科や内科はもちろんのことながら、こちらの病院が得意としているのが、フレブルに多い軟口蓋過長症や鼻腔狭窄に代表される軟部外科と呼ばれる分野です。
実際に軟口蓋過長症の手術を受けるフレンチブルドッグはかなりの数に上ります。それだけに、まずは私たちがこれらの病気についてしっかりと学ぶことは必須。
そこで下村院長に色々と教えてもらいました。
しもむら動物病院では軟口蓋過長症手術でも日帰りが可能
ーー院長の元には関西圏のみならず、遠くは北海道や岐阜といった遠方から軟口蓋過長症の手術を受けに来られる患者さんが多いと聞きました。動物病院が多い都道府県からでも、あえてここまで足を運ばれる理由は一体どういうところにあるのでしょうか。
下村院長:
関西圏以外の患者さんにも選んでいただけることはとても嬉しいですし、それだけ信頼されているのだと気持ちが引き締まります。
ただ、フレブルオーナーさんにとって軟口蓋過長症は非常にメジャーな病気ながら、短頭種以外のドッグオーナーさんにとっては病名すら聞いたことがないという人も多く、マズルの長い犬にとっては縁のない病気。
そのため軟口蓋過長症の手術そのものを実施している病院は決して多いとは言えず、とりわけ麻酔リスクを気にされるブヒオーナーさんにとっては病院選びそのもので迷われる方が多いのでしょう。
当院は月に1〜2度程度軟口蓋過長症の手術を実施し、年間約15頭、今までに50頭くらい手術していますが、麻酔や手術で亡くなった子は1頭もいません。
また、手術を行った50頭のうちの約95%がフレンチブルドッグということもあり、オーナーさんの口コミを頼りに遠くからでも来ていただける方が多いのだと思います。
ちなみに、当院の軟口蓋過長症手術の特色のひとつが日帰りで手術ができる点。
本音を言えば経過をしっかり見たいので数日入院してもらいたいところなのですが、私自身がフレブルと長く暮らしていたため、甘えん坊で意外に神経質な彼らの性格をよく知っています。
だからフレブル自身に精神的な負担をかけないために、手術の完成度を上げてその日のうちに大好きなご家族の元にお返しするようにしているのです。
ガーガーという息遣いや大きなイビキは病気のサイン!
ーーそもそも軟口蓋過長症はどのような病気なのでしょう。
下村院長:
喉の奥の天井部から後ろに向かって伸びている柔らかい部分を「軟口蓋」と言い、フレンチブルドッグは先天的に軟口蓋が分厚くて長い傾向にあります。
この軟口蓋が長くなると気道の入り口を防いでしまって炎症を起こし、呼吸困難を引き起こす原因となるのです。
軟口蓋過長症は短頭種気道症候群と呼ばれる病気の一種で、放っておくと頻繁に喘いだり咳き込むことや吐き戻しが増えたり、最悪は命を落とすことも。
ガーガーという息遣いをしたり大きなイビキをかくフレブルは多いですが、こういった症状は病気のサイン。
熱中症に陥るリスクも上がるため、愛ブヒの呼吸音やイビキが気になったらまず軟口蓋過長症を疑ってください。
なお、オーナーさんに必ず知っておいて欲しいのが、短頭種気道症候群は進行性の病気であること。
進行性ゆえに放置しておくと喉頭蓋の麻痺や気管虚脱に発展することもあり、そもそも軟口蓋過長症であるというだけでブヒにとっては常に息苦しく苦しい状態なのです。
私自身は進行性であるということや彼らの体力を考え、軟口蓋過長症の手術をするのであれば生後4ヶ月から24ヶ月以内に行うべきだと思いますが、その期間を過ぎていたとしてもなるべく早いに越したことはありません。
麻酔リスクを理由に手術を迷って先延ばしにしているオーナーさんがたくさんおられますが、医師としては手術をせず先延ばしにするの方がリスキーだと言わざるを得ないのです。
メスを使わずCO2レーザーで処置
実際の手術の方法や麻酔のリスクを下げるために何かされていることはありますか。
下村院長:
当院ではCO2レーザーと呼ばれる炭酸ガスを用いたレーザーで手術を行っています。
このレーザーは人間だと美容外科でのホクロ除去などに使われており、メスを使わないので出血が少なく済むため手術部位が見やすく、そのおかげでより安全に、迅速かつ的確な手術ができるのが特徴でしょうか。
こういったレーザー装置にはいくつか種類があるのですが、私は軟口蓋などの粘膜部分の手術にはCO2レーザーが一番向いていると思います。
熱のダメージが少なく細かな操作がしやすいうえ、レーザーで患部を焼き切るので切った後の傷が閉じやすく、術後の浮腫みが少ないのもポイントです。
軟口蓋過長症の手術は患部が喉の奥になるので、術後に手術した部分が浮腫むと呼吸が苦しくなりますからね。この術後の経過の良さが日帰り手術を実施できる要因のひとつでもあります。
そしてフレブルオーナーさんが危惧されている麻酔についてですが、当院では特に特別な何かをしているわけではありません。
麻酔薬には一般的なものを使っていますが、心掛けているのは麻酔が効いて意識がなくなった時にしっかりと呼吸ができるように正しく気管チューブを挿入して気道を確保すること。
それと麻酔自体は看護師が行うのですが、当院の看護師は12年のキャリアを持つベテランで認定動物看護師資格を持っています。
看護師とともに患者の表情や舌の動き、呼吸の強弱や速度、血圧などをチェックしながら麻酔をかけることで安全性を確保しています。
実際のところ多くのオーナーさんが麻酔についての不安を口にされますが、経験に裏付けられた技術と正しい処置ができていれば、それほど心配することはないのですよ。
軟口蓋の「再手術」は鼻の穴を広げる手術を同時にやることで防げる
軟口蓋軟口蓋過長症と同様にフレブルに多いのが鼻腔が狭くなっている鼻腔狭窄症ですが、この手術は軟口蓋過長症手術と一緒に行った方が良いのでしょうか。
下村院長:
これはケースバイケースでその子の鼻の穴の状態によって変わります。
鼻腔狭窄症でない場合なら軟口蓋の手術だけで効果が得られますが、軟口蓋は手術せずに鼻の手術だけを行なった場合は効果が薄いと言えるでしょう。
ところで、一度軟口蓋過長症の手術を受けたにも関わらず、また軟口蓋が伸びてきて再び手術をしなければならないというケースを時々耳にしますが、これは鼻腔狭窄症手術を同時に行うことでも軽減できます。
当院では取り除く軟口蓋の範囲が広いので手術直後の再手術は過去に例がありませんが、軟口蓋が伸びるのは空気を一生懸命吸い込む際に起きるマイナスの圧力によるものなので、術後しばらく経過してから伸びる可能性はあります。
実は軟口蓋過長症の手術方法自体は広く知られているのですが、命に関わるリスクがあるからやらないという先生も少なくないのです。
それと同様に、フレブルやブルドッグに多い尻尾のトラブルもCO2レーザーで手術が可能です。尻尾がくるりと捻れている子だと空気に触れない密着部分に間擦疹(摩擦によって起こる肌荒れ)が起こり、それが痒みや痛みの原因になります。
この場合は皮膚が入り組んでいる部分をレーザーで除去するのですが、原因そのものを取り除くので再発はありません。
よくベビパウダーや軟膏を塗って対処するオーナーさんがおられますが、これはあくまでも一時しのぎの処置。原因がある限り治ることはありません。
ただ、この手術も実施している病院は少なく、それはやはり下肢の神経症状に作用する馬尾(ばび)神経に近い部分だから。
万が一馬尾神経を損傷るすと麻痺やしびれが残るため、この手術を請け負う病院そのものが少数なのです。
私は自分がフレブルやブルドッグと暮らしてきたからこそ、彼らの健康がどれほどオーナーさんを喜ばせるのかよく知っています。
だから一般的に避けられがちな手術もやる、自分で難しければ信頼の置ける専門医を紹介する、というのがポリシーですね。
フレブルはチェリーアイや歯のトラブルにも注意
ーー先生は軟部外科を得意とされていますが、学生時代は眼科を専門に学ばれていますよね。フレンチブルドッグが気をつけるべき目の症状をお教えください。
下村院長:
フレンチブルドッグに多いのはチェリーアイという症状で、これは下まぶたの内側にある第三眼瞼の根元の付け根がゆるむことで起きるもの。
大半は1歳未満のパピー期に発症し、放っておくと乾性角結膜炎の発症率が上がります。
実はフレブルに目のトラブルが起きやすいのは、マズルが短いため眼球が様々な障害物に触れやすいからだと思っている方が多いのですが、これは間違い。
そもそもブヒたち短頭種は目の神経が少なく、痛みに鈍感なのです。
そのため瞳に違和感があっても気付きにくかったり涙の分泌が少なくドライアイになってしまうことが多く、知らないうちに症状が進行してしまうことが多々あります。
だからこそオーナーさんがよく見てあげ、目ヤニの量や瞳のツヤ、白目の充血がないかなどを日々確認してあげてください。
あと、目以外にも気をつけたいのが口の中。
フレブルは顎の力が強いため、硬すぎるおもちゃを噛んで歯が割れてしまうことが時々あります。そのため口の中のチェックも合わせて行いましょう。
ちなみに、最近はショートボディのフレブルがすごく人気ですよね。確かに大きなお顔にぎゅっと詰まった短いボディは可愛いけれど、胴が短いということはそれだけ胸骨が短く詰まっているということ。
そのせいで神経が圧迫されて麻痺しやすかったり、先天的な骨の奇形が起こりやすい傾向にあります。
これは私の個人的な意見ですが、いずれはフレブルのショートボディ信仰がなくなり、無理のない体格でブリーディングされる子が増えることをいちフレブル好きとして願っています。
下村先生がブヒオーナーから支持される理由
病院内に足を踏み入れた時に気づいたのが、あちらこちらに鎮座する多彩なフレブルグッズ。
これらは患者さん家族から送られたものや院長自らが買い集めたものまで様々ですが、これを見ただけでこの病院はフレブルに強い、と確信できました。
院長ご自身がイングリッシュブルドッグやフレンチブルドッグと長く暮らされていたので、彼らのことがすごく好きだということはもちろん、扱い方や病気についても熟知されています。
また、月に1度、獣医皮膚科・耳科の専門企業である「ベッドダーム東京」から最新のスキンケア科学を専門とする下浦宏美先生を迎えて予約診療を行っているので、皮膚トラブルに関してもしっかりお任せできるのが多くフレブルオーナーに支持される理由なのでしょう。
院長プロフィール
下村直(しもむらただし)院長
麻布大学(内科学第三講座、獣医眼科学)を卒業後、5年間大阪府内の動物病院(うち1年間を夜間救急病院)にて勤務し、2001年にしもむら動物病院を開業。
定評のある麻酔技術を活かした多彩な外科手術を行い、特に軟口蓋過長症手術は噂を聞きつけたフレブルオーナーが日本各地から手術に訪れるほどの手腕。
整形外科や皮膚科など専門性の高い症状は各専門医と提携した治療を行うことでも知られ、分かりやすい説明と的確な判断も支持されている大きな理由。
最近14歳という長寿を全うしてくれた相棒のブリンドル、ドンちゃんを見送られたそうですが、過去の相棒も鼻ぺちゃばかりという生粋の鼻ぺちゃわんこ好きです。
病院DATA
しもむら動物病院
大阪府堺市北区黒土町2323-1 Sunplaza三国ヶ丘東店内
072-240-8810
受付時間 9:00〜12:00、17:00〜20:00
休み 火曜、金曜午後
取材・文/横田愛子
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