2020年3月31日11,302 View

【呼吸器科】若返る、アレルギー改善etc…呼吸がラクになるといいことだらけ!軟口蓋過長ほか短頭種に多い呼吸疾患を無麻酔で検査【犬・猫の呼吸器科・神奈川】

フレンチブルドッグが罹患しやすい病気・ケガの“スペシャリスト”を紹介する特集『もしものときの名医図鑑』。

今回は、フレンチブルドッグのいちばんの魅力である“鼻ぺちゃ”が原因で引き起こされる病気について。ブヒという愛称の由来でもあるブヒブヒとした呼吸音や、人間並みに大きないびきは、“フレブルなら当たり前”だと思っていませんか?

じつはそれは大きな間違い。早めに手を打たないと、短命に終わるリスクをはらんでいます。

フレンチブルドッグ,名医,ヘルニア

 

短頭種のフレンチブルドッグは、大きないびきをかいたりすぐにバテたりしても仕方がないと思っていませんか? 

 

チャームポイントである平面的な顔立ちは、呼吸器の問題が出やすいリスクを抱えています。

 

今回はフレンチブルドッグに多い「短頭種気道症候群」について、『犬・猫の呼吸器科(旧相模が丘動物病院呼吸器科)』の城下幸仁院長にお話を伺いました。

 

犬・猫の呼吸器科 城下幸仁院長

名医図鑑,フレブル

 

犬と猫の呼吸器を専門とする『犬・猫の呼吸器科』は、城下幸仁院長のもと“呼吸を楽にする”という基本理念を掲げる病院。

 

いびきの大きい犬に対して手術の必要性などを調べる「いびき検診」や、無麻酔での検査をはじめ、一般の動物病院では治療が困難な呼吸器疾患の診察を行っています。

 

2018年には犬・猫の呼吸器臨床研究会を立ち上げ、「短頭種気道症候群」の解明や治療に注力。

 

短頭種と人間の咽頭の構造が似ていることから、人間の呼吸器科の医師と連携してヒトの睡眠時無呼吸症候群や乳幼児突然死症候群との関連についても研究しているそう。

 

今回は、そんな呼吸のスペシャリスト・城下院長に、フレンチブルドッグが注意するべき「短頭種気道症候群」をはじめとする呼吸器の病気について詳しく伺いました。

 

短頭種気道症候群は5つの呼吸疾患の総称

フレブル

Tienuskin/shutterstock

 

――フレンチブルドッグが呼吸器に問題が出やすい理由は?

 

城下院長:

短頭種のフレンチブルドッグは、シベリアン・ハスキーのような中頭種やコリーのような長頭種と違って鼻が短い分、気道がつぶれて狭くなっているからです。

 

平面の構造が人間の顔のようでかわいく見える一方、呼吸器に深刻な問題を抱えていることを知っていただきたいと思います。

 

ファームプレスMVM1803-犬と猫の睡眠-睡眠時無呼吸症

出典/『MVM』2018年3月号(ファームプレス)

 

短頭種は、のどが短いところやその構造も人間と似ています。

 

人間は二足歩行に進化したため首が短く狭くなりましたが、喉頭軟骨(のどぼとけ)と頭蓋骨をつなぐ舌骨がなくなっているので、呼吸のたびにのどがスムーズに伸びて息ができます。

 

犬のように四足歩行の動物の場合、首が長くあるべきなのですが、フレンチブルドッグのような短頭種は、首が人間のように短く狭く品種改良されています。

 

それなのに舌骨があるので、のどが固定された状態で伸びることができず、息が苦しくなってしまう。

 

舌骨に軟口蓋がすっぽりはまって窒息してしまうこともあるんです

 

このような短頭種によく見られる呼吸器の病気をまとめて、「短頭種気道症候群」と言います。

 

フレブルがかかりやすい「短頭種気道症候群」は主に5つ

フレブル

jadimages/shutterstock

 

――「短頭種気道症候群」とは具体的にはどのような病気ですか?

 

城下院長:

フレンチブルドッグのような短頭種は、鼻腔に厚みがあってのどが狭い犬が多く、生まれつき呼吸器の病気になりやすいリスクを抱えています。

 

「短頭種気道症候群」に当てはまるのが、主に以下の5つの病気。

 

複数の病気が同時に起きることも珍しくないので、原因を突き止めて一つずつ適切な治療を行っていきます。

 

(1)外鼻孔狭窄:鼻の入り口の穴が狭い

(2)軟口蓋過長:軟口蓋(喉頭の上部)が気管をふさぐ

(3)喉頭虚脱:喉頭軟骨がつぶれて気道が細くなる

(4)気管低形成:気管全体が細い

(5)鼻腔狭窄:鼻腔内の空気の通り道が狭くなる

 

短頭種気道症候群になると呼吸がしづらくなり、体に酸素が十分に届かないので老化が進んでしまいます。

 

フレンチブルドッグやパグに老けている犬が目立つのは、呼吸器の問題が大きいと感じています。

 

老化の進行は短命につながるので、症状に気づいたら早めに治療を始めることが重要です。

 

まずはセルフチェック! 早期発見のために知っておきたい呼吸器疾患の症状

――受診するべきサインを教えてください

 

城下院長:

まずは短頭種気道症候群の初期から末期までの症状や特徴を説明しましょう。

 

たとえ初期でも当てはまる症状があれば、早めにホームドクターに相談すること。

 

その際にはいびきの録音や苦しそうな様子の動画などを持参するのも一案でしょう。

 

必ずしも治療が必要になるとは限りませんが、早期発見と診察が大切。

 

もし後期の症状が見られたら、ただちにホームドクターを受診してください。

 

<初期の症状・特徴>

・起きているときはなんともないが、よくいびきをかく

 

・寝場所を移動する(呼吸がしづらいと体の熱が上がり、同じところで寝ていると暑くなるので冷たいところへ移動する)

 

・うつぶせで寝ることが多い(呼吸がしやすいのどを伸ばす体勢をとっている)

 

・おならが多い(鼻呼吸ではなく開口呼吸をしている可能性がある)

 

<中期の症状・特徴>

・あまり動かなくなる(疲れやすい)

 

・老化による白毛が多く、顔が老けている

 

・いびきに加えて睡眠時無呼吸が増える

 

・よく眠れないので寝起きが悪い

 

・横向きの寝相になるといびきが大きくなる

 

<後期の症状・特徴>

・呼吸のたびに「ガーッガーッ」「ズーッズーッ」という音がする

 

・開口呼吸する体力もなくなり、口があまり開かなくなる

 

・苦しそうで動けない

 

・いびきが大きい(隣の部屋や階下にいても聞こえる)

 

・寝起きが悪く、昼までボーッとしている

 

・舌の色が悪い(血色がない)

フレブル

Vinicius Moreira da Silva/shutterstock

 

<末期の症状・特徴>

・睡眠時無呼吸が悪化して眠れない

 

・あごを台にのせたり壁につけたりして首を伸ばそうとする(呼吸が少しでも楽になるようにのどを伸ばす体勢をとっている)

 

呼吸器の病気は診察がしにくいうえ、進行していると治療が難しくなるところ。

 

ホームドクターで対応が十分にできない場合は、当院のように呼吸器の専門的な診察ができる動物病院を紹介してもらう方法もあります。

 

当院の患者さんはホームドクターからの紹介が7割、飼い主さんからの連絡が3割くらいです。

 

「いびき検診」と飼い主の対処で健康管理

フレブル

chaowalit jaiyen/shutterstock

 

――フレンチブルドッグが受けておいたほうがよい検査はありますか

 

城下院長:     

当院では治療経験に基づいて作成した「いびき検診」を行っています。

 

いびきは、人間でも問題になっている睡眠時無呼吸の症状です。

 

1歳未満でいびきが大きい犬は、6歳頃から元気がなくなり、8歳頃に突然死してしまうことも珍しくありません。

 

起きているときは元気に過ごしているので、油断して受診のタイミングを逃してしまうケースがとても多い。

 

呼吸器の病気は、ほんのちょっと前までなんともなかったのが急に悪くなるのが特徴なんです。

 

フレンチブルドッグの健康管理のためにも、年1回の定期検診をおすすめしています。

病院内

『犬・猫の呼吸器科』受付・待合室のようす。

 

呼吸器の病気を防ぐ、進行させないためにオーナーができること

フレブル

Firn/shutterstock

 

――オーナーさんができる対処を教えてください。

 

城下院長:

フレンチブルドッグは体力があるのに気道が狭いので、張り切りすぎて苦しくなり、チアノーゼや熱中症を起こしやすい。

 

オーナーさんは日頃から遊ばせすぎたり興奮させすぎたりしないこと。

 

以下の方法も病気の進行を遅らせるのに役立ちます。

 

<予防策>

・寝心地がいいベッドと冷たいクールマットを用意し、犬が自由に移動できるようにする

 

・クールマット(冷たいところ)は一年中置きっぱなしにする

 

・ホットカーペットやこたつに犬が長時間いることは避ける

 

・あごを伸ばして寝られるようにベッドに枕を置く

 

・気道が一番細いあごの下の部分を圧迫しないハーネスを利用する

 

無麻酔の検査でリスクを判断してから手術を行う

病院の待合室はグリーンで統一されていて、落ち着ける空間です。

 

――城下院長が行っている治療の特徴を教えてください

 

城下院長:

麻酔をかけない状態で行う診断が特徴だと思います。

 

麻酔中はのど全体が狭くなってしまうので、いきなり麻酔をかけると命が危ない。

 

本当はある程度の広さがあるのに、かなり狭いと判断してしまう可能性もあります。

 

呼吸器は覚醒しているときの状態を見なければ正確な病状がわかりません。

 

私は当院で作成した5段階の「評価シート」をもとに、無麻酔で一次検査を行います。

 

麻酔をかけてCTやMRIを撮り、そのまま手術を行う方法もありますが、MRIを撮らなければ病状がわからない椎間板ヘルニアなどはともかく、呼吸器の病気は麻酔前の検査が重要です。

 

呼吸器の問題は急激かつダイナミックに起きるので、できるだけ情報を把握して準備しておくことが成功につながります。

 

麻酔をかけてから取り返しのつかないことになったら遅いのです。

 

<呼吸器科初診(一次検査)>

費用:7万5000円(税抜)

 

<評価シートの項目例/運動不耐性>

1/5 同年齢の動物と同様に活動でき、歩行、小走り、階段昇降、高所移動も健常動物並にできる

 

2/5 同年齢の健常動物と同様に歩行できるが、走らない。小走りですぐに息切れする、または階段や高所を健常動物並に上下できない。

 

3/5 健常動物並に活動できず、自分のペースなら20分以上歩いたり、10分以上遊び続けることができる

 

4/5 10分以上歩き続けられない、または5分以上遊べない

 

5/5 動くたびに息が荒くなる。1日中ほとんど動かない。排泄や食事の際にも呼吸が荒くなる

 

これらの評価シートで3/5を超える項目が多いと手術のリスクが高くなるので、危険を冒して手術するのは控え、安全な状態になるまで適切な処置を行います。

 

たとえばネブライザーでのどの腫れをとる、ダイエットで体重を落とす、体の熱が上がりにくい冬を待つ、散歩を控えて体力を回復させる、といった対処です。

 

できることを数カ月ほど続けて状態を改善させてから再度評価シートで確認し、手術の成功率を高めています。

 

安易に取りかかって犬が命を落としてしまわないための心がけです。

 

4歳を超えると麻酔事故のリスクがアップ! なるだけ若いうちに手術を

フレブル

Kachalkina Veronika/shutterstock

 

――フレンチブルドッグが手術を行う最適なタイミングは?

 

城下院長:

フレンチブルドッグは他犬種に比べて軟口蓋が生まれつき厚い犬が多い犬種です。

 

なので、私は気道の理論や過去報告に基づき、まず1歳未満で軟口蓋切除(厚い部分を薄くする)の手術をおすすめしています。

 

若いほうが成功しやすくリスクも低いからです。

 

1歳以上〜4歳未満でも比較的成功しやすいのですが、リスクは1歳未満より大きくなります。

 

4歳以上は手術の麻酔後に窒息死する事故が急に増えるので、リスクを理解したうえで呼吸器の専門的な治療を受けたほうがいいでしょう。

 

病状が進んでいると永久気管切開になるかもしれません。

 

命は救えますが、においを嗅いだりすることができなくなり、シャンプーができないなどの生活の制限が生じます。

 

近年は早めに受診する飼い主さんが増えてきましたが、それでも手遅れとなる犬もまだ多く、当院で年5例程度は永久気管切開になっています。

軟口蓋過長整復術前 (1024x576)

軟口蓋過長整復術前

軟口蓋過長整復術後

軟口蓋過長整復術後。厚みがなくなり、空気が通る空間ができている。

 

――麻酔のリスクを心配するオーナーさんもいますが……

 

城下院長:     

なぜ麻酔の事故が起きるのかというと、麻酔をかけてのどが狭くなっているうえ、術後すぐは気道が腫れて呼吸がしづらくなっているからです。

 

そんな状態で痛み止めを使うと、口を閉じて寝てしまう。だから息ができなくなって事故が起きるんです。

 

当院では事故を防ぐため、一時的に気管切開をして呼吸を確保します。

 

犬は呼吸が楽にできるようになり、痛み止めを使ってゆっくり寝かせてあげられるんです。

 

今まで200例以上ほど一時的気管切開を行ってきて、術後管理も安全にできると実感しています。

 

1才未満のフレンチブルドッグなら気管切開をしなくてもほぼ問題なく手術できますが、4歳以上はリスクが高くなるので積極的にすすめています。

 

手術の際に視野も広くなるのできれいに処置できるのも利点。

 

術後24〜48時間後に気管切開チューブを抜くときは麻酔の必要がなく、自然にふさがるので処置も必要ありません。

 

短頭種気道症候群の治療で若返りや皮膚の改善も!

フレブル

Aleksandra Baranoff/shutterstock

 

――呼吸器の手術をした犬にはどのような変化がありますか

 

城下院長:

低酸素の状態が改善するので、肺の状態が悪くなっていなければ寿命をのばすことができるように思います。

 

外見も3〜5歳ほど若返る犬が多いように思いますね。

 

私の経験では、フレンチブルドッグに多いアトピー性やアレルギー性皮膚炎も改善します。

 

酸素が体内に行き届いて免疫がしっかり機能するようになるのではないかと考えます。

 

または、開口呼吸によって口から体内にアレルギーの原因が入っていたのが、鼻呼吸ができるようになったことで入りにくくなったのかもしれません。

 

意外なところでは、性格が変わることでしょう。

 

呼吸が苦しいと外の刺激に対して対応できずに怒りやすくなる傾向がありますが、息が楽にできるようになってから、陽気でフレンドリーに変わった犬もいます。

 

まとめ

フレンチブルドッグはアレルギーや皮膚疾患を抱える犬もいるので、呼吸器に問題があっても「いびきくらい大したことない」と後回しにされがち。

 

しかし短頭種気道症候群を治療すると、いろいろな問題が解決するかもしれません。

 

愛犬が生きるために欠かせない「呼吸」が楽にできるようにしてあげてくださいね。

 

プロフィール

城下 幸仁(しろした・ゆきひと)院長

 

1993年に東京農工大学農学部獣医学科卒業後、相模が丘動物病院で小動物の診療を始める。その後、東京農工大学家畜外科学研究室研究生を経て、岐阜大学大学院連合獣医学研究科博士課程修了(獣医学博士)。2012年から麻布大学獣医学部内科学第二研究室共同研究員。20年以上、犬・猫の呼吸器の臨床と研究を続け、2018年に病院名を『犬・猫の呼吸器科』と改め、呼吸器のみの専門診療を行っている。

 

所属学会・研究会:犬・猫の呼吸器臨床研究会、動物臨床医学会、獣医呼吸器談話会、日本呼吸器内視鏡学会、日本小動物内視鏡推進連絡会、

 

病院DATA

名医図鑑

犬・猫の呼吸器科

住所:神奈川県座間市相模が丘6-11-7

受付時間:9:00〜12:00

休診日:火・水・年末年始

HP:http://www.verms.jp

<いびき検診>

費用:1万5000円(税抜)

ご予約・お問い合わせはサイトのフォームから申し込んでください。

 

取材・文/金子志緒

 

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