2020年8月3日1,926 View

【皮膚科・耳科】世界でも珍しい「耳科」を設立!専門医によるチーム医療で耳の病気に挑む【どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター・埼玉】

フレンチブルドッグが罹患しやすい病気・ケガの“スペシャリスト”を紹介する特集『もしものときの名医図鑑』。

今回はフレンチブルドッグに多い耳の病気について。耳の病気がなかなか治らない、アレルギーだからどうしようもない…とあきらめていませんか?

本当の原因がわかれば完治を目指せる可能性はあるんです。

フレンチブルドッグ,名医,ヘルニア

 

耳の病気の診断や治療が難しい理由の一つは、耳という未知の領域に対応できる知識や機器をもっている動物病院が少ないこと。

 

動物の医療の発展にともない、世界中で皮膚科・循環器科・神経科…などの専門医制度がありますが、人にとっては当たり前の“耳鼻科”が今もありません。

 

そこで2020年春に“耳科”を立ち上げたのが『どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター』の永田雅彦病院長です。

 

皮膚科専門医として、多くのフレンチブルドッグの耳の病気を診てきたスペシャリストにお話を伺いました。

 

どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター 永田雅彦病院長

 

『どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター」』は12の診療科を標榜し、国際的な公的学術団体に認められた専門医資格、または国内の第一人者を各科に配属しています。

 

そして、各科の獣医師による“チーム医療”が特長です。

 

2020年春には皮膚科専門医でもある永田雅彦病院長が立ち上げた“耳科”では、神経科や外科、また画像診断科や病理科、さらに麻酔の専門医と連携した診察を展開しています。

 

さらに耳鼻科の医師とも連携しながら、専門医のいない動物の耳の病気の診療に取り組んでいます。

 

今回は皮膚と耳のスペシャリスト・永田病院長にフレンチブルドッグの“耳疾患”の原因や対処法について詳しく伺います。

 

未知の領域である耳の病気を解明したい

フレンチブルドッグ

Monika Vosahlova/shutterstoc

 

――動物病院では珍しい“耳科”を設立したきっかけは?

 

永田病院長:

びっくりするかもしれませんが、耳の病気を専門的に診療できる動物病院がまだ世界のどこにもないからです。

 

正確に言うと、耳だけに特化した専門医療体系や専門医制度が確立していません。

 

人の病院のように耳鼻科がないうえ、犬の耳の病気はわかっていないことも多い。

 

外耳に炎症があると、十把一絡げに“外耳炎”として扱われ、治らなければ“アレルギー”と思われがちですが、実はいろいろな病気を検討する必要があります。

 

 

フレンチブルドッグの耳の構造

最初に耳の構造を確認しよう。 外耳は皮膚と軟骨で構成された集音器、中耳や内耳は頭の骨に包まれた音を聞く器官である(提供:永田雅彦病院長・千寿製薬)。

 

現在の動物医療では、耳の疾患は複数の診療科が関わる境界領域なんですよ。

 

外耳は皮膚ですが、その奥の中内耳になると神経科の領域。

 

さらに画像診断科や病理科の検査には麻酔科による管理が不可欠、そして手術には外科が必要になります。

 

幸いにも当院にはそれぞれの領域の専門医がそろっていて、CTとMRIもあるから仮想の“耳科”の診療が行われてきました。

 

耳を診るために必要な専門家と設備のある動物病院は、国内外ともに少ないでしょう。

 

当院では各分野の専門医が連携するチーム医療で、オーナーさんとも協力しながら、耳の病気を解明したいと思っています。

 

実は正直に言うと、皮膚科専門医の私が耳科を標榜することに抵抗があるんです。

 

ただし外耳から耳の中を見る内視鏡を持っているのは皮膚科なので、どうしても皮膚科に耳の事例が集まってきます。

 

かかりつけの先生の紹介で受診されるオーナーさんから、「耳の病気なのにどうして皮膚科なんですか?」と聞かれることも多々ありますが、もっともです。

 

愛犬の耳の病気に悩んでいるオーナーさんにとって、“耳科”があったほうが対応しやすいと思います。

オトスコープシステム

『どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター』にあるオトスコープシステム(耳内視鏡)

 

早期発見のために知っておきたい耳の異常

フレンチブルドッグ

Oleksandr Lysenko/shutterstock

 

――まずは耳の病気の種類と、その症状を教えてください

 

永田病院長:

耳の病気について最初に知っていただきたいのは、人と犬では耳の病気のとらえ方が違うということです。

 

人の場合、耳の異常といえば“耳が聞こえづらい”、“耳鳴りがする”といった機能的な問題が多いですよね。

 

ところが犬には耳の機能の状態を聞くことができないので、飼い主さんが見た目の異常に気付いて動物病院に来ることが大半。

 

耳の病気は進行すると大がかりな外科が必要になって命に関わることもあり、「もっと早く受診してくれれば…」と思うことが少なくありません。

 

耳で困っていることがあれば、ぜひ当院を利用していただきたいですね。

 

以下の症状が見られたら早めにホームドクターを受診しましょう。

 

しっかり治療したい場合は、耳に詳しい動物病院を紹介してもらうのも一案です。

 

<耳の病気のサイン/皮膚の症状>

・かぶれている

・汚れている

・赤くなっている

・かくことが多い

 

<耳の病気のサイン/神経の症状>

・首を振っている

・首が曲がっている

・顔の左右の動きがおかしい

 

フレブルに多いのは耳垢による湿疹

フレンチブルドッグ

sherwood/shutterstock

 

――耳に炎症が起きていると、体にも炎症が起きることもあるそうですが。

 

永田病院長:

当院では飼い主さんにわかりやすいように、日常的に最もよくみる外耳の湿疹を“耳の問題”と“耳と体の問題”に分けて診断名をつけています。

 

【耳垢による湿疹】

耳垢が関与して外耳に炎症が起きている状態。暑い時期に発症や悪化しやすい。

 

【脂漏性皮膚炎】

耳だけでなく、通気性が悪くて汚れがたまりやすい指間や陰部などに、皮脂の蓄積と共に炎症が起きている状態。やはり暑い時期や湿度の高い時期に発症や悪化しやすい。

 

これらは炎症が起きている部分の耳垢を取り除く、過剰な皮脂を取る、外用ステロイドを使う、といった対処を行えば治ることが多い。

 

ところが適切な治療が遅れたり、体質などが関与したりすると、炎症が新しい炎症をつくり、慢性化して問題が雪だるまのように大きくなっていきます。

 

なかなか治らない耳や皮膚の炎症は“アレルギー”と思われがちですが、犬のアレルギーは決して多くありません。

 

外耳は耳垢を起点とするトラブルのほうがずっと多いんです。

 

そもそも耳垢はフケや皮脂の集まりで、体の皮膚と同じく表面を保護する役割があり、アレルギーとは関係なく出るうえ、その産生を止めることもできません。

 

外耳の病気の原因(1)耳垢のケアでトラブルに発展

フレンチブルドッグの外耳

 

――フレンチブルドッグに多い外耳の病気を教えていただけますか。

 

永田病院長:

フレンチブルドッグは、私が診ている中で耳のトラブルが多い犬種ですね。

 

外耳では耳垢以外にも病気に発展しやすい理由が3つあります。

 

(1)犬が耳をかいて傷つけてしまう

犬はときどき頭を振って遠心力で耳垢を外に出しているが、ときに耳垢を気にして、かいて傷をつけてしまうケースも。

 

また、オーナーさんが首を振る犬を見て心配して触れたり、耳掃除をしたりすると、犬がかえって気にして耳をかいて傷つけてしまうことがある。

 

(2)耳掃除や市販のクリーナーで異常が起きる

よかれと思ってオーナーさんが耳掃除をすると傷つけたり、市販ケア製品の成分が耳の中に堆積したりして、ケアが病気に発展するケースもある。

 

(3)耳垢が外へ出ていかず中にたまる

外耳の皮膚は奥から外へ向かってフケを排出するしくみをもっている。

 

耳の入り口をティッシュペーパーや綿棒などでこすってしまうと、外へ向かう動きが止まり、その奥に耳垢がたまってしまう。

 

耳道が狭くなると耳の中が健常な温度や湿度を保てなくなり、異常を起こしやすくなる。

耳の中

外耳から鼓膜を見た様子。外耳道の奥に光沢のある鼓膜がある(提供:永田雅彦病院長)。

 

外耳の病気の原因(2)病気の体質がある

フレンチブルドッグ

Peakstock/shutterstock

 

――犬種の特性や体質も病気に影響するのでしょうか?

 

永田病院長:

まだ推測の域を出ませんが、生まれつきコラーゲン線維の働きに特性がある犬種、たとえばアメリカンコッカースパニエルやフレンチブルドッグに耳の問題をよく経験します。

 

コラーゲンは皮膚の土台の90%以上を占める大切な物質で、脆弱だと皮膚がたるんでシワができやすくなり、通気がよくないとトラブルが起こりやすくなります。

 

フレンチブルドッグは顔や首の周りにシワが多く見られます。

 

耳の中も同じような環境になりやすく、構造的に皮膚病が起こりやすいのかもしれません。

 

また、コラーゲンの働きが不安定だと、異常を修復しようとする際に組織が過剰に盛り上がってケロイドのようになってしまうこともあります。

 

耳の中で炎症を繰り返すたびに組織が盛り上がると、耳道が狭くなって温度や湿度を正常に保てなくなって問題を繰り返します。

 

コラーゲンは皮膚だけでなく骨や臓器など体のあらゆる部位をつくっているので、皮膚にこのような特性をもっている犬は、関節にも問題を抱えていることが少なくありません。

 

人にはコラーゲンの先天的異常によるエーラス・ダンロス症候群という病気があります。

 

皮膚が伸びやすい、背骨が曲がる、血管が弱い、消化器に不調がある、といったさまざまな症状が現れます。

 

これに相当する特性をもった犬種や個体が見られます。

 

中耳の病気の原因:フレブルは構造に問題があることも

 

フレンチブルドッグの中耳

鼓膜の奥にある粘膜のスペース。大きな袋状の「鼓室」や「鼓室胞」は音を反響させて聞こえやすくする役割がある。

 

――フレブルに多いという中耳の病気について伺えますか。

 

永田病院長:

外耳から耳垢や皮脂が鼓膜を破って中耳に入ると“鼓室胞”に落ちます。

 

中耳の天井にある内耳には影響しないように工夫されているようです。

 

このような構造があるからなのか、人と比べて犬は中耳炎や内耳炎が少ないです。

 

ところが、フレンチブルドッグは中耳炎が珍しくありません。

 

当院では、主に4つの理由を疑っています。

 

(1)外耳の問題が波及する

耳垢や構造に特性があるフレブルの場合、外耳湿疹を繰り返すと耳道が歪んで耳垢が外に出られず、鼓膜を破って中耳に落ちてくる。

 

(2)中耳の構造に特性がある

短頭種は鼻やのどが短く、また中耳から鼻やのどにつながる耳管も短いようである。

 

(3)呼吸器のトラブルが影響している

フレンチブルドッグは軟口蓋過長が多く、のどが腫れることも珍しくない。その腫れが耳管の異常を引き起こすと、中耳の環境が変化しやすいようである。

 

(4)真珠腫ができやすい

中耳は口や鼻のように潤いをもった粘膜なので本来はフケを作らない。ところがときにフケが作られ、堆積して真珠のような塊になることがある。

犬の耳のCT画像

真珠腫性中耳炎のCT像。外耳と中耳の境界(黄色矢印)より中央側にある中耳「鼓室胞」に空気の黒が映らない。左は正常(提供:永田雅彦病院長)。

 

永田病院長:

「(3)呼吸器のトラブルが影響している」場合には、飼い主さんには耳の治療の前に呼吸器の手術を行なうよう提案することもあります。

 

呼吸器の問題を解決することで、繰り返す中耳炎がよくなることを期待しています。

 

なお耳の処置には全身麻酔が必要ですが、のどが詰まりやすい状態にあると安心して麻酔がかけられません。

 

短頭種は通常の犬より慎重な麻酔管理が求められるので、当院のように麻酔に精通した獣医師や専門医がいる動物病院で処置が受けられると安心です。

 

フレンチブルドッグに多く、要注意なのが「(4)真珠腫ができやすい」です。

 

本来外に出ていくはずのフケが粘膜に入ると、周囲を刺激してひどい炎症を起こし、骨の形を変えたり溶かしたりすることもあるほど厄介。

 

中耳のすぐ近くに脳があるので、炎症が拡大すると亡くなってしまう危険もあるんです。

 

当院では内視鏡を使って中耳のフケなどを取り出し、定期的にクリーニングができるような外耳道を確保する手術を行っています。

 

当院に勤務している獣医師がこの治療を論文にしたところ、オーストラリアから問い合わせがあったんですよ。

 

この病気と治療方法の認知度が上がって、早期発見、早期対処につながったらうれしいですね。

 

診療費は症状によって違うので事前に説明

専門診療イメージ

かかりつけの動物病院(一次診療)と連携して治療を行う

 

――耳の病気を診ていただく場合の診察料の目安は?

 

永田病院長:

病気や状態によって診察料はいろいろです。

 

耳科ではさまざまな分野の専門医の診察や検査、また処置も必要になるので高額になることもあります。

 

ちなみにCTとMRIを撮って画像診断を行うと20万円ほどかかってしまいます。

 

診察時には必要な検査や治療にかかる費用もご説明し、その上でご家族と相談しながら方針を決めていきます(初診料は1万円/税抜)。

 

治療はもちろん、犬とオーナーの不安に寄り添う

フレンチブルドッグ

mala_koza/shutterstock

 

――永田病院長が診療を行ううえで大切にしていることは何ですか?

 

永田病院長:

病気による痛みや苦しみを取り除く努力をすると同時に、ご家族にとって安心できる存在になれるよう心がけています。

 

病気と向き合っているオーナーさんも不安になっているはずですよね。

 

その不安にどれだけ寄り添えるか、不安を少なくできるような良好な関係を作れるか。

 

苦労を一緒に背負うと言ったら大げさかもしれませんが、犬とオーナーさんの日常生活が少しでも快適になるお手伝いがどれだけできるかを考えています。

 

自分の犬が病気になったとき、安心して預けられるような獣医師になりたいなと思っています。

 

本当はかっこよく「治せますよ!」と言いたいんですが、耳の病気は未知の部分も多いので診断や治療に苦労する場面も少なくありません。

 

オーナーさんのご理解とご協力をいただきながら、日本からよりよい耳科医療が発信できるように努力しています。

 

まとめ

永田病院長を中心とするチーム医療で“耳科”を設立した『どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター』。

 

われわれがやっていることはまだ発展途上、と永田病院長は言いますが、耳の病気に悩み続けた多くのフレンチブルドッグとオーナーさんを救っています。

 

来院したオーナーさんに「先生が最後の砦だから頼みます」と言われると、緊張しながらも気合いが入るそう。

 

「頼ってもらえるのはうれしいですよね」と言いながら浮かべた優しい笑顔が印象的でした。

 

院長プロフィール

永田 雅彦(ながた・まさひこ)病院長

 

獣医師、博士(獣医学)、アジア獣医皮膚科専門医。1994年にどうぶつ皮膚病センター、1997年にASC設立。2019年には『どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター』の病院長に就任。皮膚科および耳科部長。

 

所属学会:一般社団法人 日本獣医皮膚科学会会長、アジア獣医皮膚科学会設立理事、アジア獣医皮膚科専門医協会設立理事 他

 

病院DATA

どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター

どうぶつの総合病院 専門医療&救急センター

住所:埼玉県川口市石神815

電話:048-229-7390/救急外来048-229-7299

受付時間:9:00〜17:00/救急外来17:00〜25:00

休診日なし

HP: https://vsec.jp

 

取材・文/金子志緒

 

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