2022年12月8日5,503 View

【専門医に教わる】フレンチブルドッグと脳腫瘍の関係―Kyoto AR動物高度医療センター神志那弘明先生

フレンチブルドッグは脳腫瘍を患う子が多い。これは取材を通して数多くのフレブルを知る当メディアが以前より感じていたことです。とりわけシニア期以降のフレンチブルドッグに顕著で、レジェンドブヒのほとんどは脳腫瘍の代表的な症状である痙攣発作を起こしていること。今現在も脳腫瘍と闘うフレブルは多数いて、そんな子たちのオーナーさんはきっとより深くフレブルと脳腫瘍の関係について知りたいと願っていることでしょう。

そこで今回は、脳腫瘍の診察経験が豊富な脳外科のエキスパート、Kyoto AR動物高度医療センターの神志那弘明(かみしな ひろあき)先生に詳しくお話を伺いました。

フレンチブルドッグは脳腫瘍になりやすい犬種?

フレンチブルドッグ,脳腫瘍

ADVTP/shutterstock

犬種によって罹りやすい病気が存在することは広く知られています。

 

ある病気が発生する頻度が高いことを“好発”と言いますが、フレンチブルドッグは脳腫瘍の好発犬種であるといっても過言ではありません。

 

神志那先生:

「神経病の中で飛び抜けて多いわけではないものの、脳腫瘍を患うのはやはりフレンチブルドッグやボストンテリア、ボクサーに多く、フレブルに関して言えば私が診察した中では大半が[*]原発性脳腫瘍、特にグリオーマの一種である[*]希突起膠細胞腫です。

 

グリオーマは脳腫瘍の一種で、神経細胞の働きを助ける役割のグリア細胞が腫瘍になるもの。そのため脳の中に染み込むように発育するのが特徴です。

 

よく短頭種にグリオーマが多いと言われますがこれはやや正確性に欠け、グリオーマに罹るのは短頭種が多い、というのが正しいですね。

 

けれど同じ短頭種でもパグやペキニーズにはあまり見られず、トイ・プードルでもグリオーマが発生することもあります。

 

ただフレンチブルドッグが最も多いのは事実で、脳腫瘍になりやすいかどうかを聞かれたら“なりやすい”犬種であることは間違いありません。

 

また、悪性腫瘍は一般的に癌と呼ばれますが、若くして癌になるケースは生まれ持った遺伝子異常が影響して発生することが多く進行も早い傾向に。

 

一方でシニアの癌は成長=老化過程でDNAが破損して起きたり、生活習慣が影響することで患うもので、悪性度はさほど高くないとされています」

 

注釈)*原発性脳腫瘍は脳及び脳髄膜に腫瘍ができること。脳腫瘍には転移性もあり、転移性は別の部位にできた腫瘍が脳に転移することです。

注釈)*希突起膠細胞とは脳や脊髄(中枢神経系)にあり、突起を伸長させ神経細胞に巻きつくことでミエリンと呼ばれる髄鞘を形成して情報伝達速素を上昇させる役割を持つ細胞の一種です。

 

なぜフレンチブルドッグに脳腫瘍が好発するのか、その原因は遺伝子に関係しているのか。

 

この辺りも気になりますが、確かにフレンチブルドッグ、ボストンテリア、ボクサーは遺伝的にグリオーマを起こしやすいそう。

 

ただ、そういった遺伝子を有しているからといって必ずしも脳腫瘍になるわけでもないのです。

 

神志那先生:

「これは診察をしていての体感ですが、遺伝子で起きる病気には波があります。

 

印象としては、今から5年前はグリオーマで診察を受けるフレンチブルドッグが非常に多く、今は減っている。

 

きっと同時期にたまたまグリオーマが多い家系から繁殖をさせるなど、無理な交配があった可能性もあるでしょう。

 

遺伝子が原因で発症する病気には目の網膜が萎縮するPRA(進行性網膜萎縮)や脊髄が変性するDM(変性性脊髄症)などがあり、これらは遺伝子検査でわかりますが、脳腫瘍のリスクの有無を調べる遺伝子検査は現状はなく、遺伝子と病気の関係性は今の段階では不明。

 

ただ、フレンチブルドッグの場合は圧倒的にグリオーマが多いので、遺伝子的な要因が関係していると考えられます。

 

これまでの研究でもいくつかの候補遺伝子がわかっていますが、現時点ではグリオーマの発生にどの遺伝子がどの程度関与しているかは不明です」

 

早期段階で気づくのはかなり困難

フレンチブルドッグ,脳腫瘍

Hryshchyshen-Serhii/shutterstock

脳腫瘍が厄介なのは、目で見てわからないところ。

 

例えば体の表面にできた腫瘍であれば、日々の触れ合いの中で早い時期に気づくことが出来るかも。

 

けれど脳の中は目に見えず、触れたところで気づきようがありません。

 

神志那先生:

「ほとんどの場合、痙攣をきっかけに病院に来られます。

 

しかし痙攣が起きた時点では腫瘍ができてある程度の時間が経過している(数か月から長ければ半年以上)と予想され、早期とは言えません。

 

脳腫瘍の兆候は痙攣以外にも複数あり腫瘍ができる場所によって症状が異なります。

 

人の脳腫瘍の初期段階では頭痛、めまい、視野の一部が欠ける(視界の一部分が見えづらくなる)などが多いそうです。

 

犬のこういった症状を飼い主が気づくのはかなり難しいでしょう。

 

物にぶつかるレベルだとかなり進行している状態で、いくら愛犬とコミュニケーションをとっているオーナーさんでも初期段階で気づくのは無理に近いレベルで困難です。

 

物にぶつかるようになって異変を感じ、最初は眼科を受診する方もかなりいらっしゃいます」

 

痙攣が脳腫瘍に気づくきっかけとなる場合が多い。

 

ただ、痙攣を引き起こすのは脳腫瘍だけではなく、他の脳の病気、例えばてんかんや脳炎でも痙攣が起きます。

 

その時に脳腫瘍か、他の病気かを見極めるポイントはどこにあるのでしょう。

 

神志那先生:

「もちろん例外もありますが、脳腫瘍になりやすいのは8歳から。中高年以降に多い病気です。

 

一方でてんかんは生後6ヶ月から6歳頃までに症状が出ることが多いので、8歳以降で初めて痙攣を起こしたのなら脳腫瘍を第一に疑います。

 

MRI検査をすれば脳腫瘍か脳炎かの判断ができ、てんかんだとMRI画像上では異常は出ません。

 

また、その腫瘍が悪性か良性かは、過去のデータの蓄積により画像の特徴である程度見極められます。

 

脳腫瘍のフレンチブルドッグのほとんどが希突起膠細胞腫だと言いましたが、希突起膠細胞腫はグレード1〜3まであり、1が良性、2が中間、3が悪性。

 

フレンチブルドッグはグレード2のグリオーマが80%以上ですが、良性と悪性の違いは腫瘍が成長するスピード。

 

良性はゆっくり、悪性は成長スピードが早く、悪性の方が転移しやすいです」

 

脳腫瘍の早期発見の秘策とは

フレンチブルドッグ,脳腫瘍

Olga-Aniven/shutterstock

日頃から愛ブヒの様子を見ていてもなかなか気づけない、ならばどうすれば早期発見できるのでしょうか。

 

それには脳ドックという方法があります。

 

神志那先生:

「悪性グリオーマだと分かれば手術や放射線、抗がん剤による治療を開始できます。

 

診断が遅れるとそれだけ腫瘍が大きくなり手術も困難になるため、早期発見が最も重要です。

 

しかし検査のために全身麻酔をしてMRIを撮るのは大変ですね。

 

通常のMRIは約1時間の麻酔をかけますが、当院が新たに導入した超電導型MRIだと数分から最長でも10分程度で脳腫瘍かどうかのおおよその判断が可能です。

フレンチブルドッグ,脳腫瘍

Kyoto AR動物高度医療センターで新たに導入した「超電動型MRI」

 

非常に短時間で撮影できるため全身麻酔ではなく鎮静剤を用い、撮影後は沈静状態から覚ます拮抗薬を使います。

 

フレンチブルドッグなど短頭種の場合は念のため気道を確保した上で鎮静剤を使いますが、全身麻酔と比べてかなりリスクが低いのが特徴。

 

フレンチブルドッグは8〜10歳頃に脳腫瘍と診断されることが比較的多いので、7歳からは健康診断に脳ドックを追加するのが脳腫瘍の対抗策になると思います」

 

脳ドックを受けるなら7歳から。それにはこんな根拠が。

 

神志那先生:

「脳腫瘍の症状が出るピークが8歳なので、その時点で数か月〜半年くらいの間は既にできている腫瘍に気づいていないことになります。

 

つまり7歳代で腫瘍ができ始めているため、7歳を機に受けるのが理に適っています。

 

それが6歳だとまだ腫瘍ができる前であったりするので、受けるなら7歳からですね」

 

なお、この脳ドックは脳腫瘍の有無を調べるほか、100%ではないものの同じくフレンチブルドッグに多い下垂体腫瘍の確認も可能。

 

検査は日帰りで受けられ、費用の目安は体重や基礎疾患の有無により変動するものの約15〜20万円。

 

ただしKyoto AR動物高度医療センターは二次診療専門病院なので、受ける場合はかかりつけ医の紹介状が必要になります。(脳ドックに関する問い合わせは対応可能)

 

脳腫瘍になったらどう治療するか

フレンチブルドッグ,脳腫瘍

ADVTP/shutterstock

脳腫瘍と診断された場合、私たちオーナーにはいくつかの治療の選択肢があります。

 

よく聞くのは放射線と抗がん剤を組み合わせた治療ですが、条件が揃えば手術で腫瘍を取り去る、という選択肢もあるのです。

 

神志那先生:

「グリオーマに限らず、脳腫瘍治療の原則は“可能ならまず手術”です。

 

手術のメリットは腫瘍の大部分(または全て)をなくすことが出来る、病理検査によって確定診断がつく、確定診断がつけばその後の補助治療(放射線治療や薬物治療)の必要性や予後判断ができる、などです。

 

そのため我々は手術適応と判断される場合、まずは手術を推奨します。

 

ただし手術すべきかどうかは獣医師によって判断が変わるのが当然であり、獣医師側の設備や経験値、さらに犬の年齢やコンディション、オーナー様のお考えにも左右されるでしょう。

 

手術をする場合の前提条件もあり、まず原発性であること、そして腫瘍が取れる位置にできているかどうかです。

 

腫瘍の中には放射線治療の効果が高いものもあるので、そういう場合は最初に放射線治療を提案することもありますが、何より大事なのが犬のコンディション。

 

獣医師と設備が揃っていても、手術を受ける犬の体調が悪ければ手術日を延期することも稀ではありません」

 

脳腫瘍の手術とはどのような手術なのか。それには病院の設備が大きく関わってきます。

 

神志那先生:

「脳腫瘍の手術の場合、必要最低限の範囲を開頭し、腫瘍を取り除いて閉頭します。

 

当院ではより精密さを求めるために手術用顕微鏡を用いて手術をしますが、顕微鏡設備を持っている病院はあまり多くありません。

 

手術用顕微鏡がなければ拡大鏡を用いるのが一般的で、手術後に必要ならば放射線や抗がん剤治療を組み合わせます。

 

手術後、コンディションの良い犬なら数時間で立って歩くところまで回復します。

 

なお、現状の脳腫瘍の治療では、手術で全摘した後に周囲に飛び散った腫瘍を叩くため放射線治療を行うのが最も長生きができる方法。

 

ここまで出来たら良ければ3年、現実に5年生きている子もいますよ」

 

フレンチブルドッグにとっての3年や5年、それは人に換算すればとても長い年月。

 

それが叶うかもしれないならば、手術は必ず選択肢のひとつとして入れておきたい。

 

脳腫瘍の予防はできる?

フレンチブルドッグ,脳腫瘍

Oksamutnaya/shutterstock

脳ドックで早期発見ができれば脳腫瘍の治療効果はより高くなるけれど、そもそも脳腫瘍の予防やなりにくい体を作ることは出来るのでしょうか。

 

神志那先生:

「獣医師の立場で申し上げると、脳腫瘍に対し獣医学的根拠のある予防法は現状ありません。

 

科学的根拠はないけれど、免疫力を上げるとされるサプリメントの摂取や適度な運動、ストレスを減らすなどは良いと思います。

 

また、特にフレンチブルドッグに気をつけてほしいのが呼吸器。呼吸することは命を繋ぐ大切な行為ですが、内臓の健康にも大きく関わってきます。

 

健全な呼吸によって多くの酸素を体内に取り込むことで臓器を健やかに保てますし、何より脳腫瘍になった際、全身麻酔を伴う手術などに影響します。

 

脳腫瘍もですが、仮に手術を要する病気になった際、まず手術ができる体であることが重要。

 

その際に軟口蓋過長症や鼻腔狭窄症ならリスクが上がるため、日頃から呼吸器に問題がないかをしっかり見てあげてくださいね」

 

脳腫瘍だけじゃない脳の病気

フレンチブルドッグ,脳腫瘍

ADVTP/shutterstock

実はグリオーマ以外にも、フレンチブルドッグに起こりやすい脳神経系の病気があります。それは下垂体腫瘍。

 

グリオーマと同じく中高齢から発症しやすく、クッシングもその症状のひとつ。

 

神志那先生:

「下垂体は脳中央の底部分に存在するホルモン生産の中枢部分。

 

ここに腫瘍が出来るのが下垂体腫瘍です。

 

クッシング症候群を起こす犬の実に90%が下垂体腫瘍によるもので、副腎からコルチゾールというホルモンが多く出るのが原因。

 

症状は多飲多尿、お腹が内臓の重みを支えきれずたるんできたり皮膚が薄くなる、元気がなく性格の変化を疑う異常行動が起きるなど。

 

下垂体腫瘍の場合はそれが下垂体の腫瘍と気づく以前にクッシング症状が出て、腹部エコーと血液検査で診断ができます。

 

手術が難しい箇所(外科手術をしている病院もあるが国内でも5施設以下でかなり限定される)で放射線治療がメインとなりますが、放射線がよく効くケースが多く完治は難しくとも進行を大幅に遅らせることが可能です。

 

あと、脳炎にかかるフレンチブルドッグも多く、こちらは3〜5歳が中央値。

 

脳炎にも種類がありますが、フレンチブルドッグも脳炎の発症が多く、痙攣を始め多様な神経症状を示します。

 

治療にはステロイドや免疫抑制剤を用いますが、投薬の継続が必要に。

 

脳腫瘍でなくとも痙攣を引き起こす病気は他にもあるので、その痙攣の原因は何かを突き止めるためにMRIなどを用い、正確に診断を下すことがとても重要なのです」

 

おわりに

フレンチブルドッグ,脳腫瘍

ADVTP/shutterstock

フレンチブルドッグと暮らすうえで必ず知っておきたいのが脳腫瘍の知識。

 

脳腫瘍は確かに厄介な病気ですが、現代医学では早期発見の手立てもある病です。

 

愛ブヒと脳腫瘍が少なからず遠くない関係である以上、私たちオーナーにできることは正しい知識を持つこと。

 

そしていざ病気になった場合、信頼して任せられる獣医師や病院を知っておくことに他ならないのです。

 

取材・文/横田愛子

 

 

神志那 弘明(かみしな ひろあき)先生

フレンチブルドッグ,脳腫瘍

Kyoto AR動物高度医療センター センター長

獣医師(酪農学園大学卒)、M.S.,Ph.D(University of Florida)

アジア内科学会専門医(神経病)

専門分野:脳外科、脊椎再建外科、脊椎内視鏡手術

 

 

Kyoto AR動物高度医療センター

フレンチブルドッグ,脳腫瘍

2009年に設立され、約1万頭の動物の診療経験を持つ二次診療専門病院。神経病に特化した診察を主に担っていたが、2022年10月に地域動物医療の中核病院として総合二次診療施設にリニューアル。神経科はもとより、今後、整形外科、呼吸器科、総合診療科、腫瘍科、軟部外科、リハビリテーション科を順次設置し、高度先進動物医療を提供する。動物に負担が少ない手術方法を得意とし、最新機器を取り揃え、次世代の優れた動物医療従事者の育成にも取り組む。

 

住所

〒613-0034

京都府久世郡久御山町佐山中道33番

TEL

0774-39-7413

(受付時間9:00〜17:00、祝日休診)

公式サイト

https://www.kyotoar.com/

 

*初診の際は主治医より紹介状が必要。完全予約制。脳ドックに関する問い合わせは上記電話番号またはinfo@kyotoar.comまで。

 

 

 

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