残暑の時期にお空の愛犬へ想うこと
酷暑はまだまだ継続中ですが、お盆が過ぎ夏も終盤。早朝や夜にはほんの少しだけ秋の気配を感じるようになり、今年もまた夏が終わるのだなと感慨深く名残の蝉の羽音に耳を澄まします。さてお盆といえば、彼岸に旅立った命が此岸に帰ってくる日。この時期のSNSには愛した存在が生前好物だったであろうたくさんのお供物を準備し、大切な存在の帰宅を待つ投稿が溢れていました。なかでも毎年心を打たれるのが、旅立った愛ブヒを迎えるオーナーさんたちの投稿。そこには今なお尽きぬ愛情が溢れていて、死してなお、こんなふうに愛される動物たちが1頭でも増えることを願ってやみません。
いつもそばにいる。
筆者にとって今年のお盆は、愛ブヒを見送って初めて迎えたので初盆でした。
しかし普段からあまりそういったことを意識せず過ごしているため、友人から初盆にとお供え花をいただくまでピンときませんでした。
私にとってはお盆になったから帰ってくるというよりも、生前と変わらず今も普通にここにいる、そんな気持ちで毎日を生きていたからです。
あ
別に目に見えるわけでも気配を感じるわけでもないけれど、自由な体になったのなら好きな場所にいるんだろう。
そして愛ブヒが一番好きだった場所は、家族がいるこの家に違いない。と、根拠なく思い込んでいる次第です。
なのでお盆に際し特別なことは何もしなかったのですが、SNSの向こう側には、たくさんの人たちが愛ブヒを迎えるために準備をしている様子が記録されていました。
なかには早く帰って来られるようにと精霊馬のキュウリをスピードの出るマシンに改造していたり、大好物だったであろう焼き芋や果物を山ほどお供えしていたり。
そのどれもから愛ブヒを思う気持ちがキラキラとこぼれ落ちていて、きっとこうして思われている子たちは最高に幸福な日々をこの世で過ごしたのだろうと、他人事ながらもグッとくるのです。
特別な何かをしなくとも、日々、在りし日の姿を思い出すこと。
時に会いたくなって涙することもあれば、思い出して笑っちゃうこともあったり。
こうして記憶にあるかぎり、思い出話をするたびに、あの愛おしいまあるい存在はふらっとそこに姿を見せる。
そんな気がして仕方がないのです。
別れとさよならは別のもの。
私たち命ある生き物は実体を伴う生物なので、命がついえた時点で実体は荼毘に付され物理的にこの世からいなくなります。
これを一般的にお別れと言いますが、別れはその実体と二度と会えなくなることではあるけれど、さよならとはまた異なるのではないかしら、なんてことを思うのです。
よく「心の中に生きている」と言いますが、かつて愛し、今もなお変わらぬ愛情を持ち続けている存在に対しては、会えなくなってもさよならすることは、きっとない。
思い続けているってつまり、忘れないってことです。
記憶の中に生き続ける限り、永遠にさよならはやって来ません。
確かにもうこの手で触れることも抱き締めることも叶わないけれど、私たちは覚えています。
あの子の毛並みがどんなだったか、どこを撫でると喜ぶのか、それに、シワの隙間のにおいまで。
その記憶は徐々に薄れていくのかもしれないけれど、愛したという事実は揺るぎなくそこに存在し続けるから。
犬の一生は私たちよりもはるかに短いです。
だから迎える時にはいつか来る別れも含めて全部を受け入れ家族になるのですが、実際にその日が来た時には足元の地面が崩れ去るような感覚に陥ります。
それでもこの胸には、思い出がしっかりと残っている。
その思い出はちょっとやそっとじゃ色褪せず、思い出話という形で何度も話題にのぼることでより鮮明になり、彼らの輪郭が濃く縁取られていくのです。
その都度彼らは生き返り、記憶の中でその命を繋いでいく。
別れはいつか来ますが、さよならの日は来ません。
私たちが思い出す限り。
また、来年も。
今はまだお盆に無頓着な筆者ですが、いつの日かキュウリをスーパーカーに改造してあの子の帰りを待つ日が来るのかもしれません。
でも、きっと何年経とうが、私がもっと年老いて、帰りを待つよりも自分が彼岸に行った方が早いかもなという時が来ても、愛した存在はずっと傍にいます。
いつもの顔で私を見上げながら、「あの時から相当年月が経ったけど、ね、こうして今もここにいるでしょ」とばかりに首を傾げて。
こんなふうに想像すると、お盆って、大切な存在を思い返すためにある日なのではないかな、と思うのです。
日々仕事や雑事に忙殺されている人も、このタイミングで立ち止まってあの特別な存在と過ごした時間を思い出す。
迎える準備はしてもしなくても、わちゃわちゃと過ごしたあの日々をゆっくりと反芻するためにお盆はあるのかもしれません。
みなさん、今年のお盆はどうお過ごしだったでしょうか。
なかにはあの子の足音が聞こえた人もいたかもしれないし、夢の中で再び抱き締めることが叶った人もいるでしょう。
けれど、これだけは言い切れます。
お盆であってもそうじゃなくても、いつだって彼らはメッセージを送っているのです。
忘れないでね、と。
忘れない限り、永遠にさよならはやって来ないのだから。
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