【取材】鍼灸はシニアブヒに効く〜東洋医学と工夫でQOLを高めたい〜
14歳の「みだい」ちゃんは過去に2度ヘルニアを患った経験があり、今もカラダの麻痺がつづいている。日々痛みと闘うみだいちゃんを支えているのが、東洋医学の代表格ともいえる鍼灸治療。
「10歳を越えて大きな効果を感じている。シニアブヒにこそ、取り入れてほしい」
みだいちゃんのオーナー・主濱さんからお声をいただき、取材をおこなった。
目次
【第1章】
ヘルニアによる麻痺
「みだいは、2歳の頃に大きなヘルニアを経験しています。それ以来カラダに麻痺が残り、足や関節に痛みを感じているようです。さらに膀胱にも問題があって、自然とおしっこが出てしまうのでオムツを履くようにしています。
今までは車で1時間弱の病院まで通っていましたが、みだいは大の病院嫌いなので、それだけで負担になってしまって…それに、必ず院長が見てくれるわけではないので、数年前から新しい病院を探していました。」
「往診」にこだわっていた
「先ほども言いましたけど、みだいはとにかく病院が嫌いです。それに年をとると車の移動そのものが負担になるので、自宅に来てくれる「往診」の専門医を探していました。
そこで出会ったのが、今もお世話になっている大野真智子先生です。
通常の病院もそうですが、何より先生と愛ブヒ・オーナー、それぞれの相性が大切だと思うんです。一度お願いしてみて、合わなければやめよう。最初はそんな軽い気持ちでお願いしました。」
今の治療をつづけて2年以上
「大野先生は、鍼灸や漢方といった東洋医学だけでなく、西洋医学も行なっています。それだけで治療の幅も広がると思いますが、みだいに関しては東洋医学が効果てき面でした。今日施術してもらう鍼灸治療もそうですが、漢方もその時の体調に合わせて調合してくれるんです。
みだいの場合は関節の痛みを軽減してもらうことが一番の目的ですが、年齢が年齢なので夏の暑さにも弱かったりします。エアコンをつけて室内にいても、夏バテのような症状になることがあるんです。そんなときはいつもの漢方に加えて、免疫力をアップさせるものを追加してくれます。
昔はいろいろなサプリメントをあげていましたけど、先生が体調に合わせて漢方を調合してくれるので、すっかりサプリメントは飲まなくなりましたね。最初は軽い気持ちでお願いしましたけど、もう2年以上大野先生にお世話になっています。」
シニアになって、より効果が出るように
「じつは、みだいが2歳の頃にも漢方を試したことがあるんです。でも、効いているんだかいないんだか…よくわからなかったですね。みだいが若かったことや、先生が違ったのも理由のひとつかもしれないですけどね。
でも、10歳を越えて再びチャレンジしてみたら、明らかに効果が出ているのを実感しています。みだいはカラダに麻痺が残っているので、足を引きずることもありますが、漢方や鍼灸治療をした後は元気に走り回っています。
それから、シニアになると昼夜逆転になって、夜中に起きて大ハッスルすることもありますけど、よく眠ってくれるようになりましたね。もちろん若い子にも効果はあると思いますが、シニアこそ試してほしいと思っています。」
QOLの一貫として
「あくまでもみだいに関してですが、病気を治すというよりも、快適な生活を維持するためのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を目的としています。痛みを軽減してあげる、ぐっすり眠れるようにする、これは快適に過ごす上で欠かせないことですから。
愛ブヒのQOLを高めることは、私たちオーナーの暮らしを豊かにすることにもつながると思うんです。東洋医学の他にも、みだいのカラダに合わせてサスペンダーを手作りしたり、ごはんを食べやすいように工夫してみたり。こうしてみだいの負担を減らしてあげると、私たちも楽になりますからね。
たとえば、みだいは後ろ足が麻痺しているので、ごはんを食べるときも私たちが後ろ足を支えてあげなければいけません。このときに電話が鳴ったら出られないし、インターフォンが鳴っても出られないんですよ。じゃあどうすればいいんだろう…日々それを考えて、みだいと私たち自身が快適に過ごせるように工夫をしています。鍼灸治療・漢方もそのひとつですね。」
【第2章】
みだいちゃんの鍼灸治療
主濱さんとお話をしていると、大野先生がやってきた。主濱さんがおっしゃっていた通り、朗らかで優しそうな雰囲気の方。さっそく、今のみだいちゃんの体調と、今日施す鍼灸治療について先生にお話をうかがった。
「みだいちゃんの場合は、ヘルニアや年齢により全身の関節が痛い状態にあります。さらに、後ろ足が麻痺しているので、自然と前足に力が入るようになるんです。そうすると、今度は前足に負担がかかり、そこから首に負担がかかる…というように、カラダ全体がつながっているんですね。
みだいちゃんに関しては、全身の関節状態を良くし、カラダ全体のバランスを整えてあげる施術が必要となります。」
大野先生の治療ステップは、大きくわけて5つ。
[1]問診
カルテを見ながら、最近の体調について問診。食欲、便・尿の状態、睡眠などオーナーに細かく質問をしていきます。
[2]触診
問診が終わったら、触診です。全身を隈なく触り、口を開けて舌の色を確認します。たとえば、足先を触って冷たければ循環が悪い証拠。このように、あらゆる箇所を触って目で確認し、今の状態を調べます。このとき、前回と比べて変化している点を見極めるのが何よりも重要。
[3]鍼を刺す
問診と触診で今の状態がわかったら、症状に合わせてカラダに鍼を刺していきます。鍼の本数や刺す場所は、そのときの症状によって異なります。みだいちゃんはこの日、約30本の鍼を首から足にかけて全身に刺していました。
[4]鍼に電気を流す
鍼を刺し終えたら、鍼を伝って低周波の電気を流します。そうすることで、カラダの内部(神経)まで刺激がいくようになります。さらに周波数を変えることにより、筋肉運動や内臓の働きの改善、神経の麻痺の改善に効果を発揮します。
[5]ビタミン注射を打つ
鍼治療が終わったら、最後にビタミン注射を打ちます。これにより、治療の効果が長持ちするようになるのです。
治療中の様子
みだいちゃんも2年以上つづけているこの治療に慣れているのか、すっかり落ち着いた様子。しかし、飽きてくるとカラダを動かしたくなるそうで、おばあさんがみだいちゃんの前に座り、おやつをあげる係を担っていた。
食べることが大好きなみだいちゃんは「おやつ」という言葉に終始反応。ときどきご褒美をあげることで、ごきげんを保っていた。
治療後は、カラダの動きが軽やかに
治療前は、少し足を引きずるように歩いていたみだいちゃん。ところが、鍼治療が終わるとカラダをピョンピョンさせて走り回っていた。
麻痺は残っているものの「痛み」に関していえば、明らかに軽減されているのがわかった。
【第3章】
大野先生に質問
大野先生は、西洋医学出身の獣医師。臨床をくり返す中で、「なぜ薬の効く・効かないがあるのか」「なぜ抗生剤をやめると再発するケースがあるのか」など様々な疑問が生じるとともに、西洋医学のみの限界を感じるようになった。
そこで東洋医学に出会い、アメリカでライセンスを取得。今は、西洋医学・東洋医学いずれも施し、治療の幅を広げている。そんな大野先生に、鍼灸治療の小さな疑問や、良い獣医師の見分け方についてお話をうかがった。
ー鍼を刺すときに、痛みは感じないのでしょうか
「基本的に、痛みは無いと言われています。治療で使う鍼は、人間の髪の毛より少しだけ太い程度です。0.2mmくらいでしょうか。もちろん治療によって鍼の太さは異なりますが、基本的にはとても細いです。そのため、刺しても痛さは感じないと言われています。ただし、問題を起こしている部分に繋がっている神経(いわゆるツボ)にヒットした時には鈍痛を感じることはあるようです。これは痛いというよりも、カラダに響くという表現が適切かもしれません。これは鍼治療を受けた人間の感想です。私も含めて(笑)」
ー施術中、呼吸がハァハァしていたのはなぜでしょうか
「鍼治療をすると、基本的に血行が良くなります。特にフレンチブルドッグのような鼻ペチャの犬は、陰虚(いんきょ)といって、もともとカラダの熱を外に出しにくい性質をもっています。これにより、カラダがぽかぽかになって呼吸が荒くなったのです。治療はその様子をみつつ、加減して行います。フレンチブルドッグは特に体温調節が苦手なので、気を付けてあげなければいけないです。」
ーたしかにフレブルは熱を溜めやすい犬種です。熱を冷ますような漢方もあるのでしょうか
「もちろんあります。カラダに熱を溜め込んでしまうことで、色々な症状が出やすくなってしまいます。皮膚炎を起こすのも、それが原因であることがあります。そんなときはカラダを冷ます漢方を処方して、バランスをとってあげることは可能です。」
ー最後に、良い獣医師の見分け方を教えてください
「んー…これはとても難しい質問だと思います。“病気を診断して治療することに執着している。かつ、飼い主様の気持ちに誠実である”先生は、信頼できるのではないでしょうか。
獣医師は、目や皮膚、内科や外科など、動物たちのあらゆる病気を診なければなりません。さらに、日本でも家族における犬の在り方が代わり、従来の番犬・外犬から「家族」へとなりました。
大変喜ばしいことですが、それにより獣医師への要求が増えているのは事実です。より多くの疾患を診ていると、必ず得意不得意が出てきます。つまり、ひとりで全ての疾患を診ることに限界がきている…というわけです。
しかし、化学や医療は確実に進歩していますので、その分、検査や治療も増えてきているのです。もちろん、動物は喋れないので獣医師は総合医療を頭に入れておくのは必須なのですが、「どんな病気でも任せてください」という先生は、少し不安な気もしています。
「ここまでなら、うちで手に負えるけど、これ以上はこう言った理由で厳しいので紹介したいけどいかがですか」と正直に言える先生は、信頼できるのではないでしょうか。全てを自分ひとりで治そうとするのではなく、その子の病気を治すためなら他の先生の力も借りる。それでも、飼い主の気持ちを尊重する。そんな先生に出会えれば、素敵だと思います。
先生はつづける。
「今の日本は、まだまだ鍼灸治療が盛んではありませんが、これからはもっと増えます。私はアメリカでライセンスを取得したのですが、その学校が今年、日本で開講されます(その立ち上げのお手伝いをしています)。
人の医学部でも、東洋医学を授業で学ぶようになったそうです。その事を考えても、獣医療で広がっていくのは明らかです。それだけ注目されているということですから、気になる方はぜひ試されてみてはいかがでしょうか。
西洋医学・東洋医学、それぞれに限界があります。しかし、その両方を取り入れることで治療の幅は広がるのではないでしょうか。良い先生に出会い、治療の選択肢を広げ、飼い主様が納得できる治療をしていただければと思います。そして、楽しいワンコライフを送っていただければと思います。」
【プロフィール】
大野真智子
北里大学卒業
CHI INSTITUTE認定 獣医鍼灸師
CHI INSTITUTE認定 獣医漢方医
秦野市にある「みかん動物病院」獣医師。西洋医学だけでなく、鍼灸治療・漢方といった東洋医学にも従事している。自宅へ訪れる「往診」も積極的に行なっている。往診は「Corn-Lily Animal Holistic Clinic」として活動中。
◆「Corn-Lily Animal Holistic Clinic」HP
◆お問い合わせ
※この記事は「BUHI vol.46」からの転載です。一部加筆・修正をし、公開しています。
こちらの記事も合わせてチェックしてみてくださいね!
漢方・東洋医学で犬(フレブル)の寿命をまっとうさせる〜「ハルペッツクリニック東京」林晴敏院長〜
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