【取材】東洋医学的予防ケアで長寿をめざす「弁天どうぶつ病院」茂山尚佑院長 [特集:ミドルシニアLIFE]
French Bulldog Lifeでは、シニアブヒになる手前の「ミドルシニア期(5、6歳)」をどう過ごすかが、とても大切だと考えています。
女性でいえば、いつまでも美肌を保つために30代でスキンケアを始めるのか、それとも60代で始めるのか…と同じこと。
今回お話をうかがったのは、西洋医学はもちろん、東洋医学にも造詣が深い「弁天どうぶつ病院」の茂山尚佑院長。 ミドルシニアから始めたい、おうちでできる東洋医学的予防ケアとは?
目次
獣医さんに聞いた!おうちでできる東洋医学的予防ケア
かつては「短命」だとされたフレンチブルドッグですが、身体の特徴やかかりやすい病気をオーナーが学び対策することで、ここ数年の間にフレブルの平均寿命は間違いなく伸びています。
最近ではフレブルの平均寿命だと言われている12歳越えのブヒに出会う機会も多く、これは身体のケアや健康管理を重視しているオーナーさんが増えているからこその結果なのでしょう。
フレブル界で5歳といえば、人間にしておよそ36歳。
私たちの場合でもちょうど体力の衰えを感じ始めたり、健康診断で何かしら引っかかる項目が現れたりする頃だと思います。
それゆえに生活習慣の見直しやヘルスケアが必要となる時期で、これはきっとフレンチブルドッグにとっても同じこと。
多くのブヒはお誕生日検診やフィラリア検査ついでの血液検査といった定期的な検診を受けていますが、これらは西洋医学からアプローチする病気対策。
そして医学には、西洋医学に対してもうひとつ、「東洋医学」と称されるジャンルがあるのです。
東洋医学というワード自体はよく耳にするけれど、実際のところ東洋医学はどういったもので、それを愛ブヒの健康にどのように役立てる方法があるのでしょうか。
そこで今回は、大阪の港区で動物病院を開業され、西洋医学はもちろん、東洋医学にも造詣が深い茂山院長にお話を伺いました。
▼以下、茂山尚佑院長のお話になります。
詳しく知りたい!東洋医学のこと
そもそも東洋医学とはどういうものでしょうか。
茂山院長:
医学は有名なところで西洋医学と東洋医学に大別されますが、人間でも動物でも、現在先進国の医療機関の中心は西洋医学です。
西洋医学はいわゆる現代医学であり、解剖学や生理学を中心に発達したもので、様々な科学的根拠によって病の原因を追求し、手術や投薬によって悪い部分を治療します。
一方東洋医学は、患者さんの症状や症候(病気の際に現れる肉体的および精神的な異常)を重視し、「弁証(べんしょう)」と呼ばれる西洋医学で言うところの診断へのプロセスを駆使して、患者さんがどのような状態であるかを探って行くもの。
問診などの他に脉(みゃく)や舌の色や顔つき、毛艶、体格なども参考にして総合的に診察します。
よく東洋医学では五臓六腑(ごぞうろっぷ)と言う言葉を使います。
これは東洋医学における基本的な機能単位のことで、五臓は「肝、心、脾、肺、腎」、六腑は「胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦」を指し、この五臓を自然界を構成する「木、火、土、金、水」の5つの要素に当てはめて体の状態を診断します(この考えを五行論(ごぎょうろん)と言います)。
ちなみに、五臓六腑で挙げられる臓腑は西洋医学のように単に臓器そのものを指すのではなく、人間の心身全体の生理機能を広義で分類しているものであると東洋医学では捉えています。
他にも五液「涙、汗、よだれ、鼻水、唾」など様々なものを5つに分類し、これらを五行と照らし合わせることで診断を行うこともあります。
例えば涙が目立つようであれば肝臓にトラブルがあるケースが多いというように、患者さんの症状からどこに病の原因が隠されているのかを探るのが東洋医学。
西洋医学と比べ、話を聞いたり触ったり見たりと、診断までの過程に時間を割くことが特徴と言えるでしょう。
体の“つながり”を意識して、未病を防ぐ
東洋医学は様々な病気の予防に活用できるのでしょうか。
茂山院長:
東洋医学でよく聞く言葉に「未病」というものがありますが、これは2,000年以上も前に記された中国の書物にも書かれているワードで、具体的には発病には至らないものの健康体ではないという状態のこと。
いわば軽い症状がある状態で、東洋医学ではこの「未病」のうちに予防治療を行い、病気にまで進行させず健康な状態をキープすることが大切であると考えられています。
何となく食欲がないだとか毛艶が良くないといったような子細なことを見逃さず、気づいた時点でケアをすることで本格的に病気にかかることを防ぐのです。
もちろん体の不調を東洋医学だけで診断するのは難しいため、血液検査やエコーといった西洋医学との両方からアプローチするのがベストですが、日々の予防であれば「整体観念(せいたいかんねん)」を意識することが効果的でしょう。
整体観念は簡単に言えば「全てがひとつ」であるという考え方で、自然環境などの外界と繋がっている自分自身のリズムを整えること。
つまり、常に「バランス」を意識して生活を送ることです。
特に完全室内飼いで長い時間を飼い主と共に過ごすフレンチブルドッグの場合、飼い主さんの生活リズムがそのまま愛犬に影響を及ぼします。
そのため飼い主さんが不規則なライフスタイルを送っていればそれがそのまま犬に影響しますし、逆に生活リズムが整っていれば犬も同様にバランスの良い生活が送れますよね。
人間でも朝日を浴びることで体のスイッチが入りますが、これは犬も同じで、ある程度決まった時間に起床就寝して食事をする、散歩をするなどの日々のリズムを整えるのが健康維持に欠かせません。
旬の野菜は、理にかなっている。積極的に取り入れよう
生活リズム以外にも、食生活の面などで手軽にできる予防ケアはあるのでしょうか。
茂山院長:
医食同源なんていう言葉が使われますが、食べた物はそのまま身体を作るエネルギー源となりますよね。
フレブルをはじめとする中型犬の場合は6歳頃から体力が低下して病気にかかりやすくなる傾向があるので、ミドルシニア期に差し掛かったら食生活を見直すことも大切です。
いくら栄養バランスが良いといってもドッグフードだけでは栄養素が偏るので、アレルギーや好き嫌いもあるとは思いますが、野菜を取り入れるのがオススメです。
その際のポイントは、日本の風土に合わせてその時期の旬のものを食べさせること。
夏ならキュウリやトマトなどが旬の野菜ですが、これらには身体を冷やす効果があり、逆に冬ならば身体を温める作用のある白菜などが良いでしょう。
東洋医学では身体を温める食べ物を「陽」、冷やす食べ物を「陰」と区別しますが、旬の食べ物というのは栄養価の面だけでなく、その季節に合った身体を作るために非常に理に適っているのです。
与える際にはレンジで加熱したり煮込んだりして消化しやすくし、便の状態を見ながら量を調節してください。
ただし、どんな食材でも与えすぎは有毒になる場合があるのでほどほどにしておくことが重要です。
ミドルシニア期は太りやすい
茂山院長:
また、食生活と直結する問題に体重がありますが、ミドルシニア期を境に太り始めるケースも少なくありません。
人間と同じで加齢とともに筋肉量が減って代謝が落ちるため、今までと同じ量やカロリーの食事だと体重が増加してしまうことも。
ただ、フレンチブルドッグとひとくちにいっても、かなり個体によって体格差があります。
なので一般的な標準体重にこだわらず、個々の体格に合わせた体重を意識すること。
僕自身は標準よりやや太めが一番長生きできると感じています。
仮に病気をした場合急激に体重が減少することがありますが、その時に蓄えがあればそれだけ体力を保てますからね。
過剰なしつけは、ストレスの要因に
茂山院長:
それと、病気予防に欠かせないのがストレスの軽減。
人間でもストレスは様々な病気の要因となり得ますが、これは犬も同様です。
犬の場合環境の変化がストレスになるだけでなく、過剰なしつけも一因に。
僕はよく診察時に飼い主さんに対し、この子は良い子ですか? と聞くのですが、ものすごく良い子ですと答えた場合、ストレスから病になっている可能性も視野に入れます。
人間社会で生きる犬にとって最低限のしつけは当然必要ですが、犬の本能を抑圧しすぎる過剰なしつけはストレスになります。
皮膚の状態などはストレスと大きく関わりがある他、例えばイライラが続くと各臓器に悪影響を及ぼすことも。
そういった場合には、飼い主さんに普段の様子を細かく聞き取りながら病気の原因のヒントを探り、漢方薬を処方することもあります。
自宅でできる予防ケア
先生の病院では鍼灸治療をなさっていますが、自宅でも鍼灸を取り入れることはできますか?
茂山院長:
針はさすがに飼い主さんがご自宅で、というのは難しいけれど、簡単なマッサージやお灸は可能です。
まずマッサージですが、これは犬の頭から尻尾の方向に向かって背中をゆっくりと撫でてあげる方法。
とても単純な方法ですが、犬の背中には経絡(けいらく)があり、経絡とは身体のツボを駅に例えるならば駅と駅の間をつなぐ線路のようなもの。
経絡に沿って撫でることで東洋医学でいうところの「気」の流れが整い、リラックス効果が得られます。
特別な道具も必要なく、優しく話しかけながら行うことでスキンシップにもなりますよ。
次にお灸ですが、これは健康な状態を維持するのに効果的です。
例えば、人でも年齢とともに衰えを感じると思いますが、東洋医学では「腎の気が不足してきている」などと見なします。
その場合、背中の真ん中からやや下の辺りを目安に灸をすえるもので、週2回程度1回10分前後行うのが理想的ですね。
お灸は人間用のものを使い、手軽なものならせんねん灸のようなシールタイプを、よりリーズナブルに行いたい場合は棒灸という棒状のお灸を使ってください。
棒灸はインターネット通販で手軽に買うことができます。
棒灸を使う場合は、マッサージと同じように背中の経絡に沿ってゆっくり動かしながらじんわり温めてあげること。
お灸をする際の注意点は、寝ている時など犬がリラックスしている状態で行うこと、嫌がったり動くようならやけどの恐れもあるのですぐに止めることに加え、口の中が乾いているなど脱水状態にある場合は避けてください。
お灸は身体の深部に熱が伝わるよう一度に数回繰り返し行いますが、終了の目安は犬の表情が和らぐ(心地よさを感じる)まで。診察室では鼠径部で脈を触り、その脈が穏やかに変化するのを目安に行います。
なお、フレンチブルドッグに多いヘルニアですが、これも鍼灸によって痛みを緩和することができます。
高齢だったり体力がない犬は手術のリスクが上がるので、そういった場合には東洋医学的なアプローチを取り入れてみるのもひとつの方法ではないでしょうか。
おわりに
今回お話を伺った際、最初に先生に尋ねたのが「東洋医学を診察に取り入れた理由」でした。
その問いに、「末期ガンなどで、もうこの子にできる治療や処置は何もありませんと伝える前に、治療の一助として、体に負担が少ない方法でこういう治療方法がありますよという可能性を示したかったからです。」と答えてくださった先生。
その根底には、大切な愛犬と一緒に病気と闘う飼い主さんに対し、諦める前に何かもうひとつ可能性を提案したい、少しでも愛する犬の身体の負担や痛みを軽くしたいという想いがあったのです。
西洋医学と東洋医学の両面から病気にアプローチすることで、治療やケアの可能性が広がることは確実でしょう。
特に今回教えていただいたミドルシニア向けのケアの多くは、家庭ですぐに取り入れられることばかり。
東洋医学を診察に取り入れている動物病院の数は全国的に見てもまだ多くはないけれど、今後西洋と東洋の両面から病気に対してアプローチを行える先生が増えることを、いちブヒオーナーとしては願ってやみません。
院長プロフィール
茂山尚佑(しげやま なおよし)院長
大阪府立大学獣医学類を卒業後、複数の動物病院での勤務を経て2019年2月にご自身の病院を開院。獣医師として活動しながら日本獣医中医学院にて東洋医学を学び、獣医中医師の認定を取得。
現在は院長として診察・治療にあたる傍ら、以前より継続している夜間動物救急の専門医療施設にて非常勤獣医師としても活躍されています。
地域に根ざしたホームドクターとして一般内科および外科の治療を行う一方で、希望する方には鍼灸や漢方薬を用いた中医学・東洋医学による診療も実施し、西洋医学と東洋医学それぞれの見地からの治療やアドバイスが受けられる病院として信頼されています。
病院DATA
弁天どうぶつ病院
大阪市港区波除2-10-1
06-7164-9446
受付時間 10:00〜13:00、16:00〜20:00
HP http://kansai.me/benten-ac/index.html
休み 金曜
取材・文/横田愛子
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