【腫瘍】腫瘍科認定医I種を持つ「がん」のスペシャリスト!【児玉どうぶつ病院・福岡】
フレブルが罹患しやすい病気・ケガの“スペシャリスト”を紹介する特集『もしものときの名医図鑑』。
今回は、合格者は年間で僅か1~2名という日本獣医がん学会・獣医腫瘍科認定医I種を取得されている、腫瘍のスペシャリスト、児玉和仁先生にお話を伺いました。
がんの治療方法には、さまざまな選択肢があるため、飼い主がしっかりとそれぞれのメリット・デメリットを学んでおくことが大切だと感じたインタビューです。
目次
児玉どうぶつ病院 児玉和仁(こだまかずひと)院長
人間と同じように、犬の腫瘍にも多くの種類があり、症状も治療法も様々です。技術の進歩により治療法が増えたのは大変嬉しいことですが、愛犬の状態や病気の情報を見極め、掛けられるコストや時間も考慮して後悔しない選択をすることは、そう簡単なことではありません。
そんなとき、腫瘍に関する豊富な知識を持ち、飼い主に的確な診断と幅広い選択肢を提示してくれる医師の存在は、何よりも頼りになるのではないでしょうか。
合格者は年間で僅か1~2名という日本獣医がん学会・獣医腫瘍科認定医I種を取得し、腫瘍の治療や研究に重点を置きながらも、飼い主に寄り添う診療医として福岡で活躍されている、児玉和仁先生にお話を伺いました。
医療現場での実践力が問われる腫瘍科認定医I種
――腫瘍科認定医Ⅰ種とは、どんな資格ですか? 資格を持っている医師と、そうでない医師の違いについて教えてください。
児玉院長:
日本獣医がん学会が「腫瘍診療の専門知識および一般臨床知識を有し、且つ実践的に診断・治療を行なう能力を備える者」と認定する資格です。Ⅱ種は知識のペーパーテストのみですが、Ⅰ種は得た知識を実践でどう使うかが問われます。
例えば正しい基準に則って合理的な診断ができるか、診断に基づいた過不足のない検査ができるか、診断内容や治療の選択肢を飼い主にきちんと説明できるか等を、試験と面接で評価されます。
なお、認定医とは、専門医と違って、一般診療の中で専門的な知識を活かして活動する医師を言います。専門医は、腫瘍なら腫瘍しか診ない医師のことで、アメリカに多く、日本にも何人かいらっしゃると思います。
私は腫瘍に重点を置きつつ一般診療もする、というスタンスでやっています。
また、Ⅰ種を取ったから特別な治療ができるようになる、というものではありません。これまでに学んだことや実践してきたことの積み重ねであり、今後も続けていくことの一過程なので、その経験の中で、相応の実践力や知識が身についたのだと思います。
――腫瘍にも多くの種類がありますが、特にフレブルが気をつけなければならない腫瘍はありますか? また早期発見のために飼い主が気づくべきサインなどもあれば教えてください。
児玉院長:
今のところ、フレブルが特に発生率が高い腫瘍というのはないと思います。脳腫瘍が多い等、色々言われていますが、どの程度多いのかはまだデータとしては出てきていないと思います。
犬全体としては、乳腺腫瘍やリンパ腫が多いですね。
乳腺腫瘍…雌犬に見られる腫瘍では最も多く、雌犬の腫瘍のうち52%を占める。
ホルモンと関係があるため、初回発情前に避妊手術(卵巣摘出術)を行なえば、発生率は0.05%に抑えられる(2回目発情前なら8%、2回目発情以降なら26%)。
専門の検査センターでの病理組織検査以外では良性悪性の判断が難しく、その半数が悪性であるという統計的事実と、治療(根治)するためには外科治療が第一選択の方法であるため、治療と診断を兼ねて外科治療を行なうのが一般的。
リンパ腫…リンパ球が身体の色々な部分で腫瘍性に増殖する疾患で、中年期(6~9歳頃)に発生することが多い。
身体のほぼ全ての組織に発生する可能性があり、発生場所により症状や治療に対する反応、予後(治療を行なった後の経過)が異なるが、すべての場合において進行度を把握することが非常に重要。
児玉院長:病気のサインを知るには、まず全体的に触ることが大切です。耳や目の周り、口の中も触って、しこりや腫れがないかを確かめる。
最近、口腔内腫瘍等、口の中の病気も多いです。デンタルケアをされている方も多いと思いますが、日頃から口の中を触れるよう慣れさせておくと良いですね。
その外、少し難易度は高めですが、リンパ節を触って腫れてないか確認してみる。
場所はいくつかあり、触りやすいのは下顎、首の辺りですが、奥の方で分かりづらいので、最初はかかりつけ医にレクチャーを受けた方が良いと思います。
そして、日頃から良く観察すること。軟便、下痢、嘔吐を繰り返したり、体重が減ったりしたら注意が必要です。体重は月1回程度で良いので、家庭でも測ると良いですね。
腫瘍の治療では外科療法、放射線療法、化学療法の3大治療が一般的
――腫瘍が悪性だったときに行なう一般的な治療法を、メリットとデメリットも含め教えてください。
児玉院長:
3大治療として、外科療法、放射線療法、化学療法があります。
外科療法は手術で患部を取る方法です。特に固形がんに最も有効で、周辺も含め大きくきれいに取れれば、がんに対する局所的な制御率は一番強いです。
ただし、全身麻酔と手術のリスクがありますし、患部を取ってしまうので、欠損により生活しにくくなることもあります。
麻酔については、最近は良くなっているのであまり神経質になる必要はありませんが、リスクがゼロではありません。
中高年の場合、麻酔の度に体力が落ちるようなケースもあります。フレブル特有ということで言えば、軟口蓋過長の場合、稀にですが麻酔が覚めたときに呼吸がし辛くなることもあります。
そして外科療法で知っておいていただきたいことは、手術は1回目が非常に重要だということ。中途半端にやってしまうと、悪性度が増したり、急に広がったりすることがあり、その後の処置が難しくなります。
また、同じ場所を2回手術すると、皮膚の形成が難しいということもあります。
そのため、手術の前に「何の目的で治療するのか」をしっかり相談し、明確にすることが大切です。
目的が根治であれば、ある程度大きな範囲を取ることになり、リスクや欠損が大きくなりますが、目的が検査や緩和なら、取る範囲は小さくなります。
何れにしても中途半端に腫瘍にメスを入れるのはもってのほかです。
放射線療法は欠損がないがコストが高い
児玉院長:
放射線療法は、患部(周辺)に放射線を当ててがん細胞を減らす療法で、患部を取らなくてよいため、欠損がないことが大きなメリットです。
デメリットとしては、まず施設が限られます。人間に使うような高エネルギーのものは大学等一部の施設にしかありません。
常用電圧のものは数は限られていますが一般の病院で持っているところもあります。
また、外科療法よりコストが高く、麻酔が多いときで7~8回必要です。
それから、放射線を当てることで火傷のような炎症が出たり(早期障害)、骨が溶けてしまったり、白内障になったりすることもあります(晩発障害)。
早期障害は回復しますが、晩発障害は回復せず障害が残ってしまいます。
化学療法は全身への転移には有効ながら、がん細胞を減らす力は3大治療の中で最も弱い
児玉院長:
化学療法はいわゆる抗がん剤を使用する治療方法で、身体全体に効果があります。リンパ腫や白血病、それから全身への転移が予想されるときに有効ですが、がん細胞を減らす力は3大治療の中で最も弱いです。
また、局所治療ではないので患部以外にも効いてしまい、人間より出にくいものの副作用があります。
これら3大治療の組み合わせが基本ですが、この外に人間に使われている免疫療法等も今後使われていくと思います。
がん治療の費用はどれくらい?
――腫瘍の治療費について、大まかな目安を教えていただけますか。
児玉院長:
獣医は自由診療なので、基準となる料金がなく、地域や病院ごとに差があります。そのため、目安として金額を出してしまうと、飼い主さんが余計に迷われたり、不安になったりされると思いますので、出さない方が良いと思います。
また病院側も様々な事情で金額を設定していますので、地域も状況も異なる他院の料金と比較されると困られると思います。
治療費については、最初に遠慮なく聞いてみることをおすすめします。また、希望予算を伝えるのも良いと思います。
無駄ではないが状況的に有用性が低い、というような検査を省くこともできますので。最初にそういう話ができることは、病院側にとっても良いことです。
治療費を尋ねるときは、術前検査にどれくらいかかるかも聞いてください。当院では、10歳以上であれば全身検査をして体調や先天的な問題等をしっかり調べます。
例えば「しこりを取るだけなら、麻酔と手術だけで良いのでは」と思われるかもしれませんが、リスク回避のためには事前の検査も必要になります。
因みに、手術そのもののコストは、良性、悪性に関わらず、場所(難易度)と範囲によって決まります。
――児玉先生が得意とされている治療法はありますか?また、治療の際に最も大切にされていることは何ですか。
児玉院長:
得意な治療というのは基本的にありませんが、色々な知識を持つことで、早期に腫瘍の兆候を察知したり、的確な診断や検査ができたり、それに基づいた多くの選択肢を提案できることで、飼い主さんと愛犬の負担をできるだけ少なくしたいと思っています。
検査ひとつを取っても、目的に合った検査をしていくことが重要で、いつでもCTやMRIが必要というわけではありません。不要な検査は飼い主さんにも愛犬にも負担になります。
もちろん必要な時には躊躇せず検査や他院での治療も勧めます。自分で何とかしようとし過ぎたり、もう少し様子を見よう、と判断を遅らせたりすることがないよう心掛けています。
例えば当院では放射線治療ができないので、放射線が必要な場合は、症状に応じて適した病院を紹介します。
その際も、その症状に関する成績率が変わらなければ、大学病院等の専門的な施設ではなく、当院の近くの放射線治療ができる一般病院を紹介するなど、できるだけ飼い主さんに負担がかからないようにしています。
タバコの煙もNG!愛ブヒをがんにさせないためには
――腫瘍の原因や、飼い主が予防のためにできることがあれば教えてください。
児玉院長:
愛犬ががんになったとき、飼い方や食べ物が悪かったのか、と飼い主さんが心配されるんですが、そういうわけではないと思います。遺伝的なものもありますので。
ご存知のとおり、食べさせてはいけないものはあります。チョコレート、ブドウ、キシリトール等。それから塩分やカロリーにも注意した方が良いですが、人間の食べ物は絶対だめ、というわけではありません。
太り過ぎたらカロリーを抑える等、状況によって制限をかけることはありますが。
ドッグフードについては、ある程度の価格の一般的なドライフードであれば、今は相当厳しい基準で作られているようですので、基本的に大丈夫だと思います。
食べ物以外では、乳がんや、子宮、精巣の病気については、避妊去勢をすれば発生率を下げられることが分かっています。麻酔が気になるかもしれませんが、子供を作らないと決めているのなら、早期に避妊去勢すればリスクを減らすことができます。
また最近では、タバコの副流煙が問題視されていて、論文も出てきています。がんのリスクが高まる可能性があるので、室内で一緒にいるときはできるだけ吸わない方が良いですね。
あとは、日頃からよく接して、触って、ちょっとしたことを気にしてあげること。そして心配なことがあればすぐかかりつけ医に相談する。
それでも分からないことがあれば詳しい先生を紹介してもらったり、それが難しければ自分で専門の病院に相談してみたり。飼い主さん自身が不安にならないように、納得できるように、後悔しないようにしてほしいですね。
当院でも腫瘍だけ診て、他のことはかかりつけ医の方に、ということもあります。そのときはかかりつけ医の方としっかり連携して、その協力関係の中で診療していくことが、動物にとっても飼い主にとっても安心できる環境だろうと思います。
何かお困りの方は、来院診察が前提ではありますが、当院にご相談いただいても大丈夫です。実際に診てみないと分からないので電話だけではお答えできませんが、遠方からいらっしゃる場合、日程が合えば初診の際に検査まで実施できることもありますので、まずは電話でご予約ください。
院長プロフィール
児玉和仁(こだまかずひと)院長
九州で多くの支持を集める地域診療医として活躍しながら、獣医療の向上のため、医師を対象とした腫瘍に関する講演、症例発表等を多数行なう。得意分野は腫瘍科と外科。
<所属団体>
日本獣医がん学会(理事)
動物臨床医学会(実行委員、評議員)
日本獣医麻酔外科学会
九州画像診断研究会
鹿児島小動物臨床フォーラム(幹事)
日本獣医師会
福岡県獣医師会
福岡市獣医師会(副会長)
<経歴>
1989年 鹿児島大学農学部獣医学科修士課程卒業
同年 栃木県 動物病院川上勤務
1994年 麻布大学獣医放射線学研究生(信田卓男先生に師事し 腫瘍学を専攻)
1997年 福岡市にて児玉どうぶつ病院を開業
2003年 日本獣医がん研究会(現・学会)獣医腫瘍科認定医Ⅰ種 取得
<病院DATA>
児玉どうぶつ病院
福岡市南区老司1-5-2
092-565-5330
受付時間 9:00~12:30 15:00~17:30
診療時間 9:00~12:30 15:00~18:30
※腫瘍の場合は要予約
HP http://www.kodama-ah.gr.jp/
休み 日曜、祝日 ※ 学会・研修参加のための臨時休診あり
取材・文/橋本文平(メイドイン編集舎)
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