【愛ブヒの旅立ちを語る】BUHI編集長小西・FBL編集長チカ・代表ケンタ【鼎談(ていだん)】後編
愛ブヒの旅立ちはとても悲しいけれど、かならず迎えることになる現実です。けれども、その死はたくさんのことを教えてくれます。
わたしたちがそれを受け入れるのならば、あの子の存在はもっと強くなる。
愛ブヒを亡くした三人(BUHI編集長小西秀司・FBL編集長チカ・代表ケンタ)がその思いを語りました。
今回は後編をお届けします。
素敵な曲を聴いているような
小西:
でね、いろんな旅立ち方があるじゃないですか。自宅で看取るのはベストかもしれないけど、そうじゃないこともある。不慮の事故だってあるだろう。気持ちの整理なんてできっこない。ただ、これも救いの話になればと思うんだけど——ぼくが編集した『きみとさいごまで』(オークラ出版)っていう本に「虹の橋のたもとでほんとうに会える希望」って書いたんだよね。さらっと出てきた言葉なんです。こう言ってはなんだけど、虹の橋の存在はそんなに大きな問題ではない。けれども「ほんとうに会える希望」は言い切ってもいい。むしろ言い切ってしまえ。その希望は、どんな亡くなり方をしていても同じなんだと。
チカ:
なるほど、まさに解釈ですね。わたしも「飼い主が思っていることは、その通りです」と言い切っていいと思うんです。だって犬は言葉が話せないし、ほんとうはどう思っているかなんて未知の世界だから。
ケンタ:
ぼくは小西さんの「ほんとうに会える希望」って言葉に救われたひとりなんですよ。
小西:
そうなんだ! 嬉しい!(笑)
ケンタ:
まだフレンピーが生きている頃は「え、どっち?」って思ってましたけど(笑)、亡くなって初めて理解できる言葉ってあるんですよね。あの本はたくさんの方に読んでもらいたいなぁ。
小西:
ところで旅立ちの日のことは今でもよく覚えてるんだけど、晴れやかなのもあったけど、ある種の甘さを感じたんだよね。
ケンタ&チカ:
甘さ……?
小西:
そう、甘い香りっていうのかな。もちろん部屋のフレグランスなんかもあるだろうけど、それを鋭敏に感じるんだよね。時雨の思い出話をしたり動画を見たりしてるとさ、今でもちょっと甘さが出てくる。清潔で、天国みたいな甘さと香り。静かな音楽、素敵な曲を聴いている感じ。
チカ:
なんと素敵な……。
ケンタ:
でも鋭敏になるのはわかる気がするなぁ。いない静けさとか、その子の匂いとか。これは何頭飼っているかは関係ないですよね。
「解夏(げげ)」
ケンタ:
今でこそ笑って話せますけど、愛ブヒが旅立ったら自分がどうなるかってわからないじゃないですか。ぼくも正直どうなるか怖かったですし、もちろん亡くなったときはすごくつらかったですけど、思ったよりも大丈夫というか、むしろ晴れやかだったんですよ。それよりも“そのちょっと前”のほうがつらかった。
チカ:
わかる。歩けなくなったり、変わっていく場面に直面した時の方が亡くなるよりつらい。
小西:
今までできたことができなくなるって、最初はびっくりするしね。
チカ:
わたしユーチューブの『街録チャンネル』っていうドキュメンタリーが好きなんですけど、「LLR(お笑いコンビ)」福田さんのインタビューにハッとしたことがあって。『解夏(げげ)』っていう映画の話なんですけど、主人公の目が見えなくなっていくストーリーなんですね。目が見えなくなることに恐怖を抱きながら、すでに目が見えない人に質問するんですよ。「目が見えなくなって怖いこと、不便なことってなんですか?」って。すると「歯磨き粉が付けにくくなること」って答えが返ってくるんですよ。想像とは遥かに異なる答えが。要は目が見えなくなっていく過程がつらいのであって、見えなくなったらひとつ上のステップにいく、花が咲いたように晴れやかになる。それが『解夏』だと。
小西:
ほぉぉ! なるほど。解夏って仏教用語だったよね。
チカ:
それがまさに介護から旅立ちまでの経験と似ていて。死に近づいていく過程はつらいけど、亡くなった瞬間、すべてが浄化された気がしたんですよ。「これ、解夏だ」と(笑)。
小西:
うんうん、とても興味深いです。でもほんと旅立った後って突き抜けた感じあるよね。あれ、なんなんだろうね。そうか、解夏か(笑)。
ケンタ:
わかるなぁ。悲しんじゃダメという風潮があったりしますけど、現実を受け入れていくことは必要ですよね。
チカ:
ぜったい大事! ちゃんと向き合っていれば愛ブヒが旅立ったときに、飼い主として大人の階段をのぼる瞬間を味わえる気がします(笑)。それこそ周りの犬と真剣に向き合ってる仲間って、愛ブヒが旅立ったことを報告すると「ようこそこちらへ」って言ってくれたりしますもんね。あれは救われるし、いちばん嬉しい言葉かもしれないです。
思い出と戦闘服
ケンタ:
ちなみに小西さんは時雨ちゃんのもので残しているものってあります?
小西:
ありますよ、あるある。フードボウルがひとつと、おやつ皿と、あとはぼくが好きだったスヌードかな。それをすぐ開けられるところにしまって、お風呂に入るときに「お風呂入ってくるよ」って声をかけたりしてね(笑)。
チカ:
全然しますよね。うちは介護生活になって「あえて残すもの」というのも作ったんですよ。ブランケットは2枚だけにして交互に洗いながら使ったり。おかげで匂いが染みついているので、今でもときどき顔を近づけて「あーいい匂い」って言ってます(笑)。
ケンタ:
ちゃんと匂いがするんだよねぇ。あとは戦闘服もじゃない?(笑)
チカ:
そうそう。病院へ行くときは必ず同じツナギの服を着て。獣医師に「また同じだ」と思われてもいいから、朝でも夜中でも必ずそれを着て、病院に行ってました(笑)。それも飾ってます。
小西:
いいねぇそれ、すごくいい! 忘れたくないんだ。そう、ぼくらはあの子たちのことを忘れたくないんだよ。
「ペットロス」という言葉の一人歩き
チカ:
そういえば、ペットロスの話しをしてもいいですか?
ケンタ:
お、きた。ずっと言ってるやつ(笑)。
小西:
なになに?
チカ:
わたし、「ペットロス」って言葉がすごくキライなんですよ。
小西:
ふふふ、わかる! 軽く感じちゃうよね。○○ロスって、今はテレビ番組が終了したときにも使われたりするじゃない。こっちは人生かけてるわけであって(笑)。
チカ:
そうなんですよ。それに「ペットロス」という言葉が飼い主さんの重症化を招いている気がするんですよね。ネットで検索すると、ペットロスとは大切な存在をなくして悲しむこととか書いてあるんですけど、そんなの当たり前じゃないですか。それを軽い気持ちで「ペットロスの経験はありますか?」ってアンケートをとって、経験者は97パーセントですっていう記事もあって。
小西&ケンタ:
(うなずく)
チカ:
それを見て「みんな経験してるんだ」って軽い気持ちで捉えてしまうと、しっかり自分の症状と向き合えなくなると思うんですよ。愛犬が旅立って食欲がなくなったり、やる気が出ない方がいて、中には後追いしてしまう方もいて……。ペットロスという言葉を使うなら、これはペットロスが原因の精神疾患だと思うので、わたしは専門医に診てもらったほうがいいと思うんですよね。生活に支障をきたすのって本当につらいですから……。
小西:
自分で気づけないこともあるだろうしね。周りがしっかりサポートしてあげないといけないよね。
チカ:
おっしゃる通りです。もしペットロスという言葉を変えられないなら、しっかりレベル分けすべきだと思うんですよ。たとえば地震でも震度1と震度7は大違いで、それぞれ行動や対策が異なるじゃないですか。それくらい細かく考えるべきだなって思ったんですよね。
小西:
ぼくら発信する側としてやるべきことは、そういうことかもしれないよね。もちろん家族構成やシチュエーションによっても違ってくるだろうし、そこは時間をかけてでもやっていかないとね。
今でもそばにいる
ケンタ:
ペットロスといえば、「なってはいけないもの」という風潮もあるじゃないですか。悲しんじゃいけない、泣いちゃいけないとか。間違った本質で言葉だけが一人歩きしてるのも良くないと思うんですよ。だって、悲しいに決まってるじゃないですか。ペットロスが良い悪いじゃなくて、悲しんでもいいんだよ、泣いてもいいんだよってことは伝えたいなぁ。
小西:
それが思い出すってことだしね。喜怒哀楽の「哀」なだけであって。生活に支障をきたすようなら、ちゃんと専門家に相談したほうがいい。でもそうじゃないなら存分に悲しんでいいんですよ。さっきも言ったけれども、その感情を味わい尽くす。
チカ:
大切な存在を失った悲しみは一生消えないですよね。それを背負った上で笑って楽しく過ごしたい。それが一緒に生きた証ですから。
ケンタ:
そうだね、フレンピーはぼくらの中で永遠に生きつづけてるし。現実を受け入れられないとかそういうことじゃなくて、一緒に歩んだ日々がぼくらの細胞に刻まれてるというか。
チカ:
まさにそんな感じ。細胞とかいうと、ちょっと重い感じがするけどね(笑)。
小西:
(笑)。実はね、時雨はそばにいるんだよね。今でもぼくの足元にいる——つまり、そう想定することも可能だということ。自由なんです。今日は誕生日だよ、帰ってきてるね、くらいでもいい。ウマウマあるよ、ほら食べていきなよ……それを一生やる。だからこそ『BUHI』という雑誌が作れるし、がんばれる。そうやって生きていくんです。
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