【取材】13歳で骨肉腫に。医者もさじを投げた命を救ったのは「過去に1例だけ」の治療法と諦めない心 #57テン
10歳を超えても元気なブヒを、憧れと敬意を込めて“レジェンドブヒ”と呼んでいるFrench Bulldog life。その元気の秘訣をオーナーさんに伺うのが、特集『レジェンドブヒの肖像』です。
今回登場いただくのは、14歳の女の子テンちゃん。13歳で腸骨に原発性骨肉腫を発症、余命3ヶ月を宣告されたものの、今でもオーナーである西山さん家族のそばで元気に暮らしています。テンちゃんに奇跡の復活をもたらしたものとは…。
テンちゃんプロフィール
年齢&性別
14歳の女の子
体重
10.5kg(若い時は11kg → 病気で8.3kgまで落ちたものの2kgも復活!)
大好きなこと
ボール遊び、外に出ること、食べること
既往歴
・0歳で膀胱結石になり食事療法。以降現在まで、pHコントロールのフードがメインに。
・3歳で誤飲したおもちゃが腸に達してしまい、腸の一部を切除。
・13歳で腸骨に原発性骨肉腫を発症。余命3カ月との診断を受けるも奇跡的に回復。現在も投薬で体調を維持している。
闘病の始まり
一時は余命宣告を受けたものの、色々な治療を経て奇跡の復活を遂げたテンちゃん。
オーナー・西山さん夫婦の手厚い看護の甲斐あって、今では日に何度もお出かけをねだるくらい元気に暮らしています。
西山さんご自身にも変化があったという、復活劇の舞台裏を取材してきました。
「最初におかしいなと思ったのは、13歳になったばかりの頃でした。後ろ足をピョコピョコさせてるなって。
歳のせいかな⋯と思っていたら、今度はお尻が腫れてきたので、すぐにかかりつけ医に連れて行きました」(テンちゃんママ・西山さん=以下「」内同)。
レントゲンを撮ると、すでに片方の腸骨が溶けていたそう。
そこで、さらに精密な検査をするため高度医療センターに向かいます。
せめて痛みを⋯
高度医療センターでの診断は、厳しいものでした。
「詳しい検査をするまでもなく、間違いなく骨肉腫だと診断されました。
骨肉腫は転移が早い癌なので、見つかったときには9割以上が転移しているとも言われて。
それに手術をするにしても、癌を治すのではなく、痛みを取るための手術になると。
何れにしても、もって3カ月くらいとのことでした」。
このとき西山さんが考えたのは、とにかくテンちゃんの痛みを取ってあげたいということ。
でも、患部が骨盤だったテンちゃんの場合、下半身を切除することになってしまいます。
「手や足の一部だったら考えたかもしれませんが、下半身をなくして、この子の尊厳は保てるのかと思いました。
そこで、手術以外で何か痛みを取る方法がないか相談し、放射線治療を提案していただいたんです。
放射線だったら、少しは痛みを和らげられるかもしれないと」。
放射線治療を受けたのは岐阜大学の動物病院。東海三県で唯一放射線治療ができるとのことで、愛知のご自宅から、片道1時間半かけて通うことになりました。
最後の希望
岐阜大学での放射線治療を始めたテンちゃんと西山さん。すぐに嬉しい驚きがありましたが、落胆も⋯。
「治療前のCT検査で、転移がないことが分かったんです。それで、じゃあ癌を治すための抗癌剤治療もやろう!と。
週に1回を、5回ひとサイクルでやってみて、効果が出ていたら続けてやることになりました。
そして5回目が終わり、再度CT検査をしたんですが、結果は良くありませんでした。
腫瘍は大きくなっていて、先生からは、残念ですがこれ以上できることはありませんと。
それで泣く泣く帰ってきたんですが、しばらくすると“やれることは本当にもうないのか”という気持ちが強くなって。
もう一回、高度医療センターに行って相談してみることにしました。
すると、腫瘍科の先生が“分子標的薬”のことを教えてくださったんです。
骨肉腫にはあまり効かないといわれているが、過去に1例だけ効いたという報告があるとのことでした。
私としては、先生がそれしか手がないと思われるなら、そこにすがりたいとお願いしました」。
治療法はないとしても、何とか痛みだけでも取ってあげたいという思いで再度訪れた高度医療センター。
そこで出合った最後の希望、分子標的薬『パラディア』を試してみることになりました。
奇跡の復活!
藁にもすがる思いで、可能性は低いといわれる『パラディア』治療に賭けた西山さん。
今度こそ、吉報は訪れたのでしょうか。
「これが劇的に効いたんです! 先生も学会に発表したいくらい稀な効き方だと仰いました。
もちろん、薬を飲み始めてすぐに効くわけではないので、効くまでの1〜2カ月は何度も危ない状態になりました。
その2カ月は本当に長かったんですが、この子には体力もあったので乗り越えられたんだと思います」。
回復までの2カ月の苦しみ、そして劇的な効果を知ったときの喜びは、どれほど大きかったことでしょう。
腫瘍は見る見る小さくなり、完全に消えてはいないものの、転移に気を付けて療養できる状態になりました。
余命3カ月からの大逆転。西山さんの思いに高度医療センターのドクターが応え、そしてテンちゃんの体力と頑張りもあって実現しました。
良いお医者さんとの出会いは本当に貴重で奇跡的ですが、それも良い治療を求めて回った西山さんの行動あればこそですね。
西山さんの決意
テンちゃんの奇跡的な回復を成し遂げ、今も月に何度もかかりつけ医や高度医療センターに通う西山さん。
まさに献身的な看護を続ける理想のオーナーさんに思えますが、実は一時期、諦めかけたこともあったそうです。
「放射線治療の5回目が終わり、効果がないと分かって落ち込んでいたときです。
私は心のどこかで、犬は人よりは早く死ぬものだから⋯と自分に言い聞かせ、諦めようとしていました。
でも、治療後の発熱が落ち着き、一生懸命ごはんを食べているテンの姿を見たとき、“ああ、この子は生きたいんだ!”と思ったんです。
この子が生きたいと思ってるのに、私が先に諦めてはいけない、できることは何でもやろうと決心しました」。
このとき西山さんの気持ちが変わっていなかったら、テンちゃんに奇跡は起きていなかったでしょう。
希望を見出せないまま、自分の生活と何とか折り合いをつけて続けてきた闘病生活。諦めかけたという西山さんのお気持ちは、ごく自然な感情の流れだと思います。
それでも、我が子が見せた生きる意欲に打たれ、もう一度自分を奮い立たせた西山さん。
理想よりも人間らしい愛情に溢れた、これぞレジェンドオーナーさんですね。
食べる喜びで元気をチャージ!
西山さんやお医者さんの助けはもちろんですが、ここまで回復できたのは、テンちゃん自身の体力もあってこそ。
その体力、どうやって身につけてきたのでしょうか。
「食事は、小さい頃から結石ができやすかったため、ずっと『ロイヤルカナン』のpH(ペーハー)コントロールにしていました。
5〜6歳までは、症状があれば水分を多く摂れるウェット、なければドライという感じです」。
※尿路結石の予防には水分を多く摂ることが重要といわれています。
「その後はだいぶ落ち着いてきたので、通常のフードを混ぜたり、シニアになってからは関節サポートに変えたりしていました。
それと最近はあまり水を飲まなくなったので、水分を摂らせるため、ドライフードにぬるま湯をひたひたにかけてあげています」。
ドライとウェットを中心に、症状や年齢に合わせ基本的な食生活を守ってこられました。でも、10歳を過ぎてからはこんな変化も。
「以前飼っていたラフという犬が10歳で病気になり亡くなってしまったんです。
食いしん坊な子だったので、あまり我慢させずあれこれ食べさせてあげればよかったと少し後悔があって。
それでテンには10歳を過ぎたら色々解禁し、量は少しですが何でも食べさせてあげることにしました」
犬に良くないものは避け、量も少しだったら、食べる喜びで元気になれる子もいっぱいいると思います。
テンちゃんも食べることが大好きなので、きっとたくさんの元気をチャージできていたことでしょう。
散歩とご主人
それから体力づくりに欠かせないのが運動、特に散歩です。こちらはご主人が頑張りました。
「とにかく外に出るのが好きで、ボール遊びなども大好きなんですが、何より散歩が大きかったと思います。
テンにしっかり散歩をさせたことが、主人の一番の自慢なんですよ(笑)」。
散歩に限らず、ご主人も西山さん同様テンちゃんに惜しみない愛情を注いでこられました。
ですが、実はその方法はご夫婦で全然違うのだとか。
「主人は何でもよく調べたり考えたりして、しっかりやるタイプなんです。
食事の時間もきっちり決めて、30分して残っていたら下げちゃったり。
そのおかげで集中してモリモリ食べるようになったのかもしれません(笑)。
それからテンが大嫌いなお風呂も、主人がすごく頑張って入れていました。
でも最近初めてサロンに行って洗ってもらったら、すごく優しく洗ってくれて、テンも負担が少なそうで。
爪切りもササッと終わって、こんなことなら早く行っておけば良かったと思いました(笑)」。
ご主人が悩み、頑張られた分は、テンちゃんの丈夫な体にしっかり反映されていると思います!
夫婦のバランス
対する西山さんは、元々楽天的な性格。犬たちの体調の変化や病気のことにも、ご自身いわくあまり敏感ではなかったそう。
「先代のラフが病気になったときも、気づいたときにはもう手遅れというくらい病気が進んでしまっていました。
テンが骨肉腫になったときも、私は最初関節炎くらいだろうと思っていましたし。
その後、検査が進んでからは私もショックを受けましたが、主人はかなり早い段階から深刻な病気かもしれないと悩んでいました」。
でもその後、時間もお金もかかる放射線治療を決めたときには、西山さんもご主人も「財産を投げ打ってでもやろう!」と心をひとつに。
楽天的な西山さんがずっとテンちゃんに与えてきたポジティブな影響と、ご主人の緻密なお世話。
その二つがバランスよく合わさった結果、テンちゃんに奇跡の復活がもたらされました。
何でもやってあげたい
最後に、西山さんが思うテンちゃんの長寿の秘訣を伺いました。
「ストレスが少なかったことはあるかもしれません。
ウチは仕事の関係で留守にすることが多く、最初は可哀想と思っていました。
でも、テンはあまり人にも犬にも馴れないというか、マイペースで自分の世界がある子なんです。
だからひとりで自由に過ごせる時間があったことは却って良かったのかもしれません」。
もちろん、テンちゃんをただひとりにするだけでなく、快適に過ごせる工夫もされています。
リビングをフリーエリアにし、常時のエアコンはもちろん、ベッドは高さや柔らかさの違うものを3つ設置。
そのうちひとつは人間の肘掛け椅子で、エアコンの風を避けたいときは肘掛けでガードできるように配置されているそうです。
そんな細やかな配慮も、そして他の介護や看病も、すべては西山さんのこんな思いからきています。
「犬や迎える家族によって、色々な考え方があり、掛けられる時間やお金も違うと思います。
だから私が思うのは、決まった何かが良いとか、必ずこれをするとかではなく、やれることがあるなら、何でもやってあげたいということだけです」。
一度は「もう良いのではないか。やれることはないのでは」と諦めかけた西山さんだからこそ、この言葉には重みを感じます。
愛犬と困難な状況に立った時、もう一度噛み締めたい言葉ですね。
取材・文/橋本文平(メイドイン編集舎)
★「#レジェンドブヒ」で投稿お待ちしています!
フレンチブルドッグライフでは、取材にご協力頂けるレジェンドブヒを探しております!
10歳を超えたブヒたちは、「#レジェンドブヒ」をつけてInstagramに投稿してみてくださいね。
編集部から取材のお声がけをさせて頂くかも!?
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