【家族への噛みつき:対策編】まずやるべきは、トレーニングより「環境作り」です!愛ブヒが「噛む状況」を作らないためのテクニック
国際的なドッグトレーナーのライセンスを取得している大久保羽純さんに、“愛ブヒの頼れるリーダーになる方法”を学ぶ、この特集。
今回のテーマは、前回教えていただいた「家族に噛み付くフレブルの気持ち」に続き、どうすれば噛みつきを避けられるかついて教えていただきました。
目次
愛ブヒが安心して笑顔で暮らせる環境作り
家族や仲間に噛みついてしまう愛ブヒのココロは、前回のコラム「【家族への噛みつき】追い詰めたのは、アナタかも。叱る前に知ってほしい「噛みつく愛ブヒ」のココロ。」でお話しました。
ブヒたちはみんな、とても優しい生き物です。仲間と平和に暮らすために、基本的にブヒたちは相手に怪我をさせるような攻撃はしません。
もしそうなってしまうようなことがあったら、愛ブヒがよほど追い詰められた状況になった証拠です。すぐに家族みんなで、現場検証をして、これから先、そういった事態にしないように、環境作りをしていく必要があります。
前回のコラムで、愛ブヒの噛みつくココロを理解していただいた皆さんへ、今回はどのように噛みつく状況を避ける環境作りをしていくか、噛みつきを予防していくかのお話をしていきます。
すでに噛む状況を作ってしまったことがある愛ブヒオーナーさんも、そうではない愛ブヒオーナーさんも、笑顔で暮らす未来のために、愛ブヒと家族を守る環境作りのテクニックを学びましょう。
そもそも噛みつきやすいブヒっているの? ブヒたちの行動を決める3つの要素
前回お伝えした通り、絶対に噛みつくブヒも、絶対に噛みつかないブヒもいません。
ブヒの口元には身を守るためのナイフがあります。もし追い詰められた状況になって、それを使わざるを得なければ、噛みつくだけです。噛みつく犬ではなく、噛みつく状況がそこにあるだけです。
そもそも基本的には、犬たちが滅多やたらに人間を攻撃してくるようなら、犬と人間は1万5千年以上もの長い歴史を共に歩めてはいません。そんな優しい生き物が、噛みつくことに発展してしまう要因を考えてみましょう。
ブヒたちの行動を決める3つの要素を知っていますか?
ブヒたちの現在の行動は「①性質×②経験×③環境」の3つの要素の掛け合わせで構成されています。
<ブヒの3要素その① 性質>
その子が生まれ持っている特徴です。いわば性格のようなもの。
例えば、音に敏感か、鈍感か。新しいものを見たときに積極的か、少しためらうのか。お腹が丈夫か、ゆるくなりやすいか。
足が長いのか、短いのか。
後から変化するものもありますが、その子の個性であり、特徴です。
<ブヒの3要素その② 経験>
生まれてから今までに、どんなことを経験したか、そのときにどう行動して、どういう結果につながったのか。それによって、様々な行動を学習していきます。
経験は、どこかの瞬間だけでなく、生きている間にずっと積み重ねていきます。オーナーさんの意図とは関係なく、望んでいなくても、見ていないときも、ブヒは自分で経験を通して学習していきます。
そしてその経験を活かして、行動します。
例えば、オーナーさんがブヒのくわえているオモチャを無理やり取り上げてしまう経験を積み重ねれば、ブヒはオモチャを口から離さなくなります。飲むようにもなります。
しかし、ご褒美のオヤツと交換こする経験を積み重ねていれば、オモチャを口から離すようになります。
<ブヒの3要素その③ 環境>
経験が過去のことなら、「環境は現在」のこと。今どのような状況に置かれているか、その場の環境によって、ブヒが取る行動が決まります。
例えば、家の中でスリッパをくわえて逃げてしまうブヒがいます。そのブヒの行動は、スリッパがあるから起こるものです。
もし環境からスリッパを無くしてしまえば、ブヒがスリッパをくわえて逃げることはありません。
環境によって学んだことは、積み重なって、「②経験」につながっていきます。
これらの3つの要素が掛け合わさって、現在の愛ブヒは行動をとっているのです。性格だけ、今までの経験だけではなく、たくさんの要素が絡み合って、今の愛ブヒの行動が出来上がっているのです。
愛ブヒを取り巻く「環境」こそ、解決のヒント!
慣れるまでは、少し難しい考え方かもしれません。しかし、この3要素が混じってしまうと、愛ブヒが取った行動に対して対策が立てられないのです。
例えばこんな状況で、3つの要素それぞれで解決しようとした場合の糸口を探っていきましょう。
状況: オーナーさんの手を噛んでしまった愛ブヒ。各オーナーさんの考え方。
Aさんは性質のせいにしがち:
「この子は、噛んでしまう性格なのね。昔から強気だとは思っていたけれど、この性格はどうにかならないのかしら。」
→ そういう性質と決めつけたところで、なにも解決しない。
Bさんは経験のせいにしがち:
「この子はきっと過去にもそういったことがあったのかしらね。私は知らないのだけれど。パピートレーニングとかもやってこなかったし、もっと勉強させておけばよかったかしらね」
→ 過去の経験のせいにしても、なにも解決しない。
Cさんは環境を分析する:
「今回噛まれたのは、ご飯を食べているときだったな。お皿が近くにある時に近付いたら唸っていたから、ご飯とお皿が愛ブヒの近くにある時に手を伸ばすと噛まれそうだぞ」
→ その時の環境をしっかり思い出して、可能性を客観的に想像できていて素晴らしい!
いかがですか? 愛ブヒたちの行動を決めている3つの要素で、私たちがすぐにアレンジできることは「環境設定」しかありません。
事故が起きてしまったときに、性質のせいにして「この子が噛みやすい子だから」と言っても、過去のせいにして「今まで悪いことを経験したから」と言っても、目の前のブヒを助けることは出来ません。
現在の愛ブヒに目を向けて、噛みつかないでも済むような環境設定にすることこそ、愛ブヒを守る我々の使命なのです。
噛みついてしまった過去の環境を徹底検証!
解決に向けての近道が、愛ブヒを取り巻く「環境設定」だとわかった皆さんなら、もう愛ブヒのココロに寄り添えているはずです! さあ、実際に噛みついてしまった状況を徹底解明していきましょう。
そのための作業は、「家族会議」です。
噛んでしまったことがある愛ブヒがいれば、その状況を家族全員で紙に書き出していきます。どんなに細かい事でもOK。刑事さんになった気持ちで、事件の検証をしましょう。
<書き出すことの例>
・噛んでしまった日付や時間。
・噛む前の状況はどうであったか。誰がいて、どんな犬がいて、どんなオモチャがあって、どこの場所にいたかなど。
・そのとき愛ブヒは何をしていたか。オーナーさんは何をしていたか。
・周辺に何があったか。
ポイントは、客観的に、具体的に家族全員で出し合うことです。
<書き出した後にすること>
家族の中で愛ブヒ役と、刑事さん役を決めて、そのときの愛ブヒのキモチを語ってみて下さい。
愛ブヒ目線であれば、想像で構いません。例として、2つの家族会議の様子を見てみましょう。
<家族A>
状況:愛ブヒがご飯を食べている時に、お皿からこぼれたドッグフードをお皿に戻してあげようとしたら、オーナーさんが噛まれた。
愛ブヒ役:「ご飯を食べていたのに、オーナーが手を出してきて、取られると思ったんですよ。びっくりして、噛んでしまいました」
刑事役:「そうですか。それは驚きますね。そのとき、オーナーさんには、どうしてもらいたかったですか?」
愛ブヒ役:「ご飯の時には、離れていて欲しいですよね。あと、じっと見られるのもちょっと嫌です」
会議で出た対策:愛ブヒのご飯中とお皿が近くにある時には、3m以上の距離を置いてみる。
<家族B>
状況: 郵便屋さんが来て愛ブヒが騒ぐので、手で制止したらオーナーさんが噛まれた。
愛ブヒ役:「チャイムが鳴ったんで、侵入者かなと思って玄関に走っていったんです。そうしたら、“ユウビンヤサン”って侵入者が来て、撃退しようとしたら、怒ったオーナーの手が僕の顔の前に出てきて、怖かったんで噛みました」
刑事役:「そうですか。それは驚きますね。そのとき、オーナーさんには、どうしてもらいたかったですか?」
愛ブヒ役:「目の前に急に手を出されるのは嫌ですね。あと、侵入者は苦手なので、会ったら攻撃しちゃいます」
刑事役:「そうですか。侵入者と会わないで済むように、ママにリビングの扉を閉めてみもらって、あなたが玄関まで行けないようにしてもらってはどうでしょう?」
愛ブヒ役:「それは良いですね。でも、リビングに閉じ込められるなら、それなりの報酬が欲しいですね。お芋とかオヤツがあれば手を打てるかな、と」
会議で出た対策: 宅急便が来るときに、愛ブヒを玄関まで来させないように、リビングでおやつをあげて、扉は閉めたままにする。
家族A、Bのように、愛ブヒ目線で検証をしていきます。
もちろん、愛ブヒは日本語を話せませんから、正解かどうかはわかりません。しかし、少しでもブヒ目線で状況を把握することで、解決へ仮説を導くことが出来るのです。
ヒントが見えたら、解決までの道のりは2つ。予防orトレーニング。
さあ、みなさん対策の案は出来ましたか?
愛ブヒのココロを理解したうえで、対策を立てるときのポイントは2つ。噛みそうな物事に対して、どちらの対策を練るのか考えましょう。
①避ける!・・・噛みつく環境になることを徹底的に避けて事故予防。
②トレーニング!・・・未来に向けて、少しずつ慣らすようにトレーニングしていく。
今後もずっと避けることが出来るのか、これから先どうやっても避けようがないためトレーニングする必要があるのか、どちらなのかを考えましょう。
まず、「①避ける」について。
愛ブヒが追い込まれないように、その状況を徹底して「避ける」環境設定をしてみましょう。
ドッグトレーナーがなんてことを言うんだと思う方もいるかも知れませんが、なんでもかんでもトレーニングをして、出来るようになる必要はありません。愛ブヒにとっても、家族にとってもやる必要のない事であれば、避けるのも良い策です。
例えば、ドッグランで他のイヌを噛んでしまうなら、ドッグランに入らずに「避ける」生活をすればいいのです。
避けるテクニックを使う例として、皆さんの人間の家族で想像してください。
たばこの煙があると機嫌が悪くなる家族と一緒に食事に行ったとき、隣にヘビースモーカーの人が来たら、どうしますか?
家族が怒り出す前に(怒らないにしても、不快に感じる前に)、席を移動するなどの「避ける」テクニックが使えますよね。友達をタバコの煙に慣らすトレーニングをする必要はありません。
もし生涯、その環境を避けられずに向き合っていく必要があるなら、トレーニングしていく必要があります。
しかし、避けても問題なく生きていけることなら、避けるテクニックを駆使するのは、素晴らしい事です。
以下に例として書き出しますが、あくまで避けるかトレーニングをするかどうかは家族の暮らし方次第。誰かが決定するのではなく、家族が愛ブヒのために決めていくことです。
①避ける例:慣らさないでも愛ブヒが損せず暮らせるものは避ける。
犬と喧嘩するなら、ドッグランに入らない。犬とすれ違わないように犬が来たら散歩道を変える。
②トレーニングする例 : 慣らさないと暮らせないものは向き合う。
家族に触られること。リードの付け外し。ブラッシング。動物病院。ハウスに入ることなど。
そもそもトレーニングの目的とは、別種族である犬たちが、人間社会で楽しく過ごしてもらうための教育です。私たち人間に合わせるばかりで、愛ブヒの性質上難しいことを押し付けてしまうのは、人間のエゴかも知れません。
どこまでは出来た方がいいのか、どんなことは避ければいいのか、なかなか家族だけでは難しい判断です。だからこそ、気軽にドッグトレーナーなどを活用してみて下さいね。
こんなときは、すぐに専門家に相談しましょう。
大事な注意ポイントがあります。噛みつく場合だけでなく、愛ブヒの行動の理由がわからないとき、少しでもおかしいなと思ったときは、専門家に相談しましょう。
例えば、体がどこか痛いから噛みつく場合や、体調が悪くて噛みつく場合は、行動修正どころではありません。すぐに病院に行って、愛ブヒを助けましょう。
健康かどうかを確認することは、行動に変化があった時の最優先事項です。
さらに、皮膚を破り、血が出る位の力で噛むなら、必ず専門家の介入が必要です。無理をしないで、行動治療専門の獣医師や、ドッグトレーナーのアドバイスをもらいましょう。
ドッグトレーナーは国家資格では無いため、専門家にもいろいろな人がいます。愛ブヒに危害を加えるようなトレーニングは徹底して避けて、家族がしっかり面接をして、愛犬のために愛ブヒ目線のプロを採用しましょう。
まとめ
噛まれてしまう事態は、愛ブヒにも家族にも、とても追い詰められた悲しい状況です。もしも事故が起こってしまったら、
①どんな状況なのか。
②専門家に相談するか。
③避けるか、トレーニングするのか。
をしっかり家族で話し合い、愛ブヒのココロをレスキューしましょう。
避けられることは避ける。向き合うべきところは、根気よくトレーニングして家族みんなで成長していく。
皆さんの愛があれば、大丈夫。しっかり前に進んでいくことが出来ます。皆さんと愛ブヒの幸せな生活を心より応援しています。
PERRO株式会社 代表取締役 大久保羽純
PERRO株式会社 代表取締役
SUNNY Dog Training Partner代表 大久保羽純
米国CCPDT認定CPDT-KAライセンス所持プロドッグトレーナー
日本とニュージーランドでトレーニングを学び、現在は東京で「犬と人の心をつなぐトレーニング」を広めている。「Happy Dog Training for LOVE & PEACE」をモットーに、しつけ方教室を始め、各種ドッグイベント開催、企業のコンサルティング、行政からの講演依頼、保護活動への協力、東京都動物愛護推進員など、日々犬と人の暮らしを楽しいものにする活動を行っている。
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