2018年7月5日13,549 View

痛くて苦しいのも終わり。保護犬ピーナッツの快復を尊ぶ日々

フレンチブルドッグのピーナッツが動物愛護センターから引き取られたのは、2017年11月のこと。耳には卵大の腫瘍があり、お腹には抜糸をされずに残ったままのナイロン糸が縫われていた。殺処分の対象にされていた、保護犬のピーナッツ。現在は、北関東を中心に保護活動を行う高橋さんのお宅で、新しい家族を募る準備をしている。

引きとるまでの経緯や、私たちにできる保護活動について、高橋さんに取材を行った。

耳には卵大の腫瘍

ピーナッツは栃木県にある動物愛護センターで保護され、ホームページなどを通して新しい家族を募っていた。ところが耳には卵大の腫瘍があり、全身が膿皮症におかされているなど、決して良い状態といえなかった。そのため、個人・団体からも引きとり希望の連絡はなかったという。

 

現在ピーナッツを保護している高橋さんは、北関東を中心に保護活動を行っている。引き取り手が見つからず、殺処分の対象にされていたピーナッツに手を差し伸べたのは、高橋さんが所属する保護団体だった。

 

「センターからピーナッツを引き出したときは、ガリガリに痩せて不安な表情をしていました。当時の体重は、わずか6・4キロ。さらに両耳に大きな腫瘍があって、とても良い状態とはいえませんでした。左耳には鶏の卵大の腫瘍ができていて、腫瘍は自壊して出血し、膿が出て悪臭を放っていました。右耳の腫瘍も耳の穴を塞ぐほど大きく、同じように膿んでいました」

 

ピーナッツを苦しめていたのは、耳の腫瘍だけではなかった。

 

「ピーナッツは全身に膿皮症を患っていました。両手両足先には毛がほとんどなく、赤く炎症を起こし、倍くらいに腫れていたと思います。さらには、お腹に埋没法で縫った跡があって、抜糸されず膿んで炎症をおこしていたんです」

 

お腹の縫い糸やピーナッツの状態が意味するもの……なんとなく想像はついていたものの、引き取ってから行った避妊手術で明らかとなった。

 

何度も子どもを産んだ跡があった

「うちに来てから避妊手術をしたときにわかったのですが、やはり何度も子どもを産んだ形跡がありました。お腹の傷が治りきらない内に何度も切られていたようです。おそらくピーナッツは、繁殖犬としてぞんざいに扱われていたのだと思います。

 

これはあくまでも推測ですが、腫瘍の大きさや硬さを考えると、ピーナッツは子どもの頃から耳に腫瘍があったと考えられます。だから販売対象にはならず、繁殖用に回されたのでしょう……。腫瘍があっても子宮さえあれば良いと考える繁殖屋もいます。そこで産むだけ産ませ、高齢になったために捨てられたのではないかと……」

 

今まで“普通”の生活をおくれなかったピーナッツには、たくさんワガママを言ってもらい家族の温かみを感じてほしいという高橋さん。その第一歩として、まずは腫瘍の摘出を始めとした、全身のケアが必要になる。

 

二度にわたる手術

※腫瘍摘出後のピーナッツ

「ピーナッツにとって、耳の腫瘍は痛く苦しいものだったと思います。引き取ってから、何よりも優先して手術を行うことにしました。耳の腫瘍は長年放置されていたため、骨の様に硬くなっている箇所も多く、手術時間も長くなることが予測されていました。麻酔時間などを考えると一度で全ての手術は難しかったので、二回にわけて行うことにしたんです。

 

一度目は、両耳の腫瘍を取り除きました。そのときに、ナイロンの糸で縫われ膿んでいたお腹の皮膚を切除し、きれいに縫い直していただきました。二度目は、左耳の耳道内の硬い部分を頭蓋骨のすぐそばまで削りました。右耳は、一度目で取りきれなかった腫瘍をさらに丁寧に取りのぞきました」

 

はたして無事に手術は成功。頭が傾くほど重かった腫瘍は、跡形もなくキレイになった。手術に加え、日頃のケアも徹底しているという高橋さん。飲み薬と併用し、丁寧なシャンプーや食事管理も欠かさない。

 

「フードはプレミアムフードにして、その他に馬肉もあげています。良質のフードでないと、毛艶や肉付きに違いが生まれますし、安いフードでは良くない脂肪ばかりが付いてしまい、病気の元になってしまいますから。おかげで少しずつ体重も増え、あばら骨は見えなくなりました。当時は汚れて黒かった顔も肌の色を取り戻し、抜けていた足の毛も生えてきています。全身に患っていた膿皮症も、すっかり完治したんですよ!」

 

少しずつではあるが、明らかな回復を見せているピーナッツ。避妊手術も含めると、今まで三回の手術を行い、その後のケアもつづいている。これにはきっと、とてつもない費用がかかるはずだ。過去にも数頭の犬を保護した高橋さん。治療費などは、どのようにまかなっているのだろうか。

 

支援金や寄付金に救われている

「治療費は、主にその子の医療費、手術にかかった費用が多額になると思った時に、ご寄付を募ったり自分でまかなったりしています。ピーナッツの場合は、引きとると決めてからすぐ、たくさんの方々からのご寄付、ご支援の連絡をお受けしました。

 

活動に賛同してくださり、定期的にご寄付をしてくださる方もいらっしゃいます。月二回の譲渡会では、今までの活動で里親になってくださった方がご寄付をくださったり、トイレシートやタオルなどを持参してくださいます。

 

それから、着られなくなったワンコ服、日用品を集め、譲渡会の時にバザーを行うこともあります。譲渡会のお手伝いをしてくださるスタッフさんが、保護犬バッジや、保護犬シール、LINEスタンプを作ってくださり、それらもバザーで販売しています。

 

これらの売り上げは保護した動物たちに使うので、本当に助かっています。それから、多額の医療費がかかる中、協力して下さる須賀川動物病院の先生には大変感謝しています。先生がいなかったら、活動は成り立っていませんから」

 

保護してからが、いちばん大変

「犬を保護したときにSNSなどでシェアしていただけるのは、とってもありがたいことです。でも、いちばん大変なのは保護をしてからなんです。今までピーナッツを含めると、フレンチブルドッグを保護したのは4頭目です。

 

フレンチブルドッグは中でもヒドイ状態で保健所に入る子が多く、医療費がかかるケースがほとんど。もちろん、それも覚悟の上で保護活動をしていますが、ご寄付をいただいたり日用品をお送りいただけるのは大変ありがたいことなんです」

 

私たちオーナーにできること

「保護犬のお預かりや、引きとることだけが活動の全てではありません。たとえば、オーナー様が着なくなった洋服はチャリティーバザーで販売をさせていただき、医療費にあてることができます。

 

愛犬が着なくなったお洋服は、保護犬たちに着せてあげることができます。ご家庭で使い古したバスタオルなんかも、保護犬たちをケアする上では欠かせないアイテムです。

 

捨てようとする前に少しだけストップをかけていただいて、保護犬たちのためにならないか……考えていただければとっても嬉しいです。現実として、お金があるほど救える命が増えることに変わりはありませんから……」

 

さらに、私たちができることとして、高橋さんはつづける。

 

避妊手術の重要性

「私たちの団体がいちばん大切に思っていることは、避妊去勢手術です。フレンチブルドッグのような短頭種は、麻酔に弱いからと避妊去勢手術をしない方がいますが、ならば、きちんと手術できる獣医さんをみつけてほしいと思います。

 

避妊手術をすることで、女の子は子宮蓄膿症や乳腺腫瘍のリスクを減らすことができます。男の子は、去勢手術をすることで肛門周囲腺腫を防ぐことができるんです。そして、オーナーが関与しない交配を防げるというのもあります。

 

事実、保健所から保護した雌犬(成犬)のほとんどが妊娠しています。人間社会で暮らしている以上、犬たちが穏やかに暮らしていくためにも、避妊去勢手術は絶対だと思っています。今ではどこの動物愛護団体も、避妊去勢手術は必須です。全ては保護犬を少なくするため、殺処分を無くすためです」

 

ピーナッツの未来は、これから

現在ピーナッツと暮らす高橋さんだが、これは新しい家族を見つけるための準備だという。基本的に保護団体は、迷子犬やセンターから犬を引き取り「その子が回復をしてから」新しい家族を見つけはじめるもの。今回のピーナッツも、まずは腫瘍を摘出し、避妊手術を終え、傷が回復したら新しい里親を募ることになる。

 

「ピーナッツは、避妊手術の傷が良くなったら里親募集を開始します。でも、三度の手術で医療費がかなりかかっていますので、ご寄付分を充てても譲渡費用は高くなってしまいます。推定8歳と高齢なこともありますので、もし引き取り手がいなかった場合は、私が譲渡費用を負担し、家族として迎えいれるつもりです。命に関わるということは、最後まで責任を持つということですから」

 

殺処分の対象だったピーナッツを保護した高橋さんは『こんなにカワイイ子が殺されようとしていた現実を知ってほしい』と、強く心に抱いている。保護犬情報をSNSでシェアすることを第一歩に、その先にある現実を受け止め、できることから初めてみるのもいいかもしれない。現在は『トイレシート、オムツ、フード、古いバスタオル』が不足しているという。ほんの少しのおすそ分けが、いま困っている犬たちの手助けになるのかもしれない。

 

協力:福島アダプトネットワーク

 

こちらの記事も合わせてチェックしてみてください。

【取材】鍼灸はシニアブヒに効く〜東洋医学と工夫でQOLを高めたい〜

 

※この記事は「BUHI vol.46」からの転載です。一部加筆・修正をし、公開しています。

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