【取材】11歳で初めて知った愛。人間との絆を糧に「余命2ヶ月」から4年が過ぎた奇跡の16歳。#25カルビ
10歳を超えても元気なブヒを、憧れと敬意を込めて“レジェンドブヒ”と呼んでいるFrench Bulldog Life。その元気の秘訣をオーナーさんに伺うのが、特集『レジェンドブヒの肖像』です。
今回は16歳を迎えても自分の足でしっかりと歩く元気な姿から、関西ブヒの間では「パワースポット」と呼ばれているカルビくんが登場。実は11歳と11ヶ月の時にリンパ腫が見つかり余命2ヶ月と診断された過去が。そこからおよそ4年、余命宣告をはねのけた秘密とは……。
目次
カルビくんのプロフィール
年齢&性別
16歳の男の子
体重
10kg(一番重い時期は16kg)
大好きなこと
触れられること、家族との旅行、お散歩
既往歴
6歳〜7歳頃に尿管結石。
その後11歳までは病院にかかったことがないため不明。
11歳で尿管結石に加え白内障、リンパ腫にかかっていると判明。
白内障によって12歳頃に失明。
13歳で右目が水晶体脱臼。続いて左目の角膜に傷がつき完治に半年を要する。16歳になる少し前くらいから耳が聞こえにくくなり、後ろ足が弱ってきたけれど、今も自分の足で歩く。
ママとの出会いが変えたカルビくんの運命
レジェンド特有の穏やかな表情をしたカルビくん。
いかにも好々爺といった印象です。
でも、そんなほのぼのとした雰囲気とは裏腹に、カルビくんには決して幸せだとは言えない時期がありました。
カルビくんにはもうすぐ10歳になる五郎くんというフレブルの弟がいます。
“カルビ”と“五郎”、兄弟なのに名前の系統が違うのを不思議に感じ、その理由をママさんに尋ねると、驚く答えが。
「私と夫はカルビが11歳の時に結婚したんです。カルビは夫、五郎は私の愛犬でした。
じつは私、夫との出会いは、カルビが私を呼んだんじゃないかって思っているんです」。
実はママさんと出会う前、カルビくんは決して幸せとは言い難い生活でした。
カルビくんは、病気で落ち込んでいたご主人のお母様を元気付けるために迎えられた子。
しかし、迎えてすぐにお母様が入院、ご主人とそのお父さんの男手だけで育てることに。
しかし働き盛りのご主人と高齢のお父さんでは、日々の世話やしつけがままならず、食と住は保障されていても、けして愛されているとは言えない状態だったそう。
「夫と出会った時、お互いフレンチブルドッグを飼っていると分かり、ビビビッと来ました。
だけど初めてカルビに会った時、世話ができておらず、明らかにリンパが腫れている姿にびっくり。
目も白濁していて白内障だとはっきりわかるほど。
私と犬の飼い方があまりに違うことに戸惑い、結婚するにあたり条件を出したんです。
カルビのことを私に任せてくださいと」。
すぐにカルビくんを病院へ連れて行くと、なんとリンパ腫だと判明。
それだけでも衝撃でしたが、追い打ちをかけるような言葉を医師が放ちます。
「余命はあと2ヶ月」。
12歳目前という年齢を考え、麻酔を要する手術はせずステロイドの投薬治療を選択。
「目の前が真っ暗になりました。でも、だったら最後の2ヶ月は目一杯の愛情を注いで、犬らしい幸せを思い切り味わわせてあげよう。
人と暮らした思い出を幸せなものにしてあげよう。
その一心で、カルビと出会ってから結婚するまでの半年間、毎晩仕事帰りにカルビに会いに行きました」
お風呂や爪切り、またケージで過ごすことが多かったカルビくんを、毎日散歩させました。
「最初は、普段歩いていないせいで、少し歩くだけで肉球が傷つき、血が出ていたんです。
けれど徐々に20分、30分と散歩時間を延ばして歩かせると、1時間のお散歩を楽しめるまでになりました。
毎日接するうちに、私のことを信頼してくれるようになって、表情も柔らかくなったように思います」
余命宣告をされてから始まったカルビくんの第二の犬生
「旅立つ前になんとか幸せを感じてもらいたい」というママさんの思いに応えるように、カルビくんは驚くべきスピードで元気と力強さを取り戻していきます。
「カルビはもともと、体も心もとても丈夫でプライドも高く、負けん気が強くてしっかり自己主張ができる頭の良い子。
だからこそ、一般的な愛犬家から見ると過酷に思える暮らしの中で、様々な病気もあったはずなのに、自分で治してここまで頑張れたんでしょう。
負けてたまるか、みたいな性格と自己治癒力の高さが11歳までカルビを支えたのは間違いありません」
ママさんは、どんどん力を取り戻すその姿に、「この子は大丈夫、病気になんか負けない」と確信したそうです。
気づけば2ヶ月が過ぎ、さらに1年、もう1年…で4年が経過。
ステロイドが効いたのか、リンパの腫れや血尿といった症状も止まり、その回復力には先生も驚くほど。
「2ヶ月を過ぎた頃、先生は“あと1年くらい”と言っていたのですが、今は“もう分からん”と笑っています。
多分、リンパ腫が極めて悪性度の低いものだったこと、代謝が良いのか血液検査をしてもステロイドの影響が少ないことなど、やはり元々の体の強さによるところが大きいんじゃないかな」
ママさんはそう分析しますが、その強さの源は、ママさんがカルビくんに与えた “愛の力”。
きっと「この幸せな時間をもっと、もっと」と願う気持ちが、余命宣告を乗り越えて生きる原動力となったのでしょう。
失明しても力強く生きる
ご主人とはスピード婚。出会いから半年で、五郎くんと一つ屋根の下での生活が始まりました。
出会った頃からすでにカルビくんの視力はかなり衰えていたそうですが、新婚旅行から帰ってきた時には、完全に失明していたそう。
それでも鼻をスンスンさせて“撫でて”とおねだりをするまでに、ママさんとの絆は強くなっていました。
その1年後、右目が水晶体脱臼に。
水晶体脱臼とは、瞳の水晶体が本来の位置からずれ、前房内や硝子体内に落下する症状のこと。
場合によってはひどい痛みを伴うことも…。
「目が見えずとも、明るい・暗いと言った光は感じているようで、自宅ではどの場所に何があるのかを把握しています。
上手に水を飲むし、トイレもちゃんとできるんですよ」
それでもぶつかって怪我をすることもあるため、最初はケージから始め、徐々に動ける範囲を広げ、今では長めのリードをつけたまま、自由に動ける範囲内で過ごしています。
「カルビは本当に強運で、水晶体脱臼は、顔の方向に向かって手前に倒れると激しい痛みを伴うのですが、カルビは痛みの少ない後方に倒れています。
そのため、治りはしなくても痛みはさほど感じていないようです」
さらに1年後。左目の角膜が傷つき、まぶたが倍ぐらいの大きさに腫れます。
「その時は、抗生物質や血清点眼を試しても一向に良くならず、最終的に先生に無理を言って、当初効果がなかった抗生物質の点眼に戻したんです。
カルビの年齢を考え、体に負担をかける治療はしたくなかったので。
それが功を奏して左目の腫れは治りました。これもカルビの持って生まれた治癒力なのかも」。
そう笑いながら話すママさんですが、話を聞きながら確信しました。
ああこれはきっと、ママさんのカルビくんを信じる力のなせる技だってことを。
出会ったときはすでにレジェンドの年齢。
そこから幾多の病気を乗り越えて16歳まで来たのは、「この子は強い子だから大丈夫」と信じてケアをしたママさんの力以外のなにものでもありません。
強運にも支えられ家族で旅を楽しむまでに
愛に包まれる喜びを知ったあと、家族で旅に出る楽しみも見つけます。
「犬を連れて旅するのは私の夢。
でも当初夫は、しつけもままならないカルビを連れての旅行は難しいんじゃないかと言っていました。
そんなことないと連れて行くと、元来お散歩や外で過ごすことが好きなカルビはとても幸せそうでした」。
人の温もりを知ったのが遅かったせいか、カルビくんはつねに、ママやパパに体のどこかを触っていてほしいそう。
「そうじゃないと、“撫でて”と要求吠えをするので、ホテルのベッドではなく、カルビくんに寄り添って床で過ごすことも。
なので、旅行はヘトヘトになります」。
それでもやっぱり旅に連れて行きたいのには、ある理由があるのでした。
旅の途中で逝ったとして、それでもいい
「旅先の草原など、誰もいない広大な空間で、リードを離した時にカルビがする仕草があるんです。
それはグーンと首を伸ばして空を向き、もう見えない目で必死に光を感じながら匂いを嗅ぐ。
その仕草を見た時に、“ああ、この子は今、体の痛みや今まで感じた寂しさ、辛いこと全部から解放されているんだ”と強く感じました。
その姿は本当に幸せそうで、この解放感に溢れたカルビの姿を見られるのなら、大変でも旅をしよう。
何度でも何度でも旅をしよう。
たとえ、旅の途中で死んでしまっても、それはきっとカルビの本望だ。そう思いました。
もちろん、16歳の壁を超えた今、17歳を迎えて欲しいという欲はありますけどね」。
余命宣告を受けたときに決めたこと
「余命宣告されて以来、ずっと決めていることがあるんです。
それが、1日に1回でも、この子が幸せだと感じられる瞬間を与えたい。
数秒でもいいから、体の痛みやしんどさから解放してあげたいということ。
だから歩けるうちは自分の足で、時にはカートで、外の世界を楽しんでいます。
だって、旅や散歩での刺激から、カルビが喜びや生きる力を得ていると思うから」。
さすがに暑い日は避けていますが、これから先、どんなに年老いても散歩には連れて行くことを、ママさんは心に決めています。
余命と寿命は違う
「カルビと暮らすようになって強く感じるのは、余命と寿命は違うってこと。
寿命は、持って生まれた体の強さが8割、残りの2割が飼い主の接し方で決まると思うんです」。
その2割を、ママさんは全力でやっているんですね。
「私がカルビから学んだこともたくさんあります。
それは、信じれば信じただけ、してあげたらした分だけ、全身全霊で応えてくれること。
結局、私の方がカルビにパワーをもらっているので、お世話という形のお礼をしてるような気がします」。
弟分の五郎くんも、カルビくんの姿から多くを学んでいるはずだと、ママさんは確信しています。
「今の暮らしがあるのは五郎に助けられている部分も多々あって、2頭ともかけがえのない存在です」。
当初、カルビくんとの仲は険悪。
自分だけのママだったのに、その愛情を他のブヒと分け合うなんて、きっと甘えん坊なフレブルにとっては大変なことだったはず。
それでも五郎くんが我慢できたのは、ママさんと二人だけの散歩や、寄り添って眠る特別なコミュニケーションがあったから。
そんな五郎くんの理解のなかで、カルビくんはパパさんとの絆も深めます。
ママさんが来たことで時間に余裕ができ、やっとカルビくんと向き会うことができるように。
結婚後は、カルビくんの夜のお散歩はパパさんの担当です。
歩調を合わせて歩くうち、少しずつ信頼関係が出来上がっていきました。
犬としての幸せを最期まで
15歳の夏、散歩大好きなカルビくんが、急に歩かなくなる事件が。
足の裏をよく見ると、人間で言う“魚の目”のような角質の塊がいくつも肉球にできていて、歩くとそれが痛む様子。
「放っておくとにょきにょき伸びてくるので、お風呂で温めてふやかしてからその角質の塊をパチンと切るのですが、これが意外と大変で(笑)。
半年前からは耳も遠くなり、後ろ足も弱るなど、衰えがあちこちに出ています。
でも歩くことが大好きなので、寝たきりにさせたくない。
様々な匂いや空気に触れて、犬の本能を満たしてあげたい。
私にとっては子供みたいな存在ですが、人間のようにというよりは、やっぱり犬としての幸せを最期まで全うさせてあげたいんです。
先は長くないだろうけれど、だからこそカルビが“良い1日だった”と思える日を積み重ねて生きて欲しい。
でもやっぱり、今はまだカルビがいなくなる想像はできないですね」。
時に涙ぐみながらカルビくんとの思い出を話してくれたママさん。
その傍らでカートに入ったカルビくんの背中にずっとパパさんが触れていました。
時々その手を離すと、カルビくんは「ワンワン」と吠えます。
それは“二度と、この手の温もりを離さないぞ”と言っているようでした。
人と生きる喜びに餓えていたカルビくんが、11歳を過ぎてようやく手に入れた幸せ。
この幸せに少しでも長く浸っていたいという願いこそが、きっとカルビくんの命を動かす原動力なのでしょう。
取材・文/横田愛子
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