【家族への噛みつき:対処編】もしも噛まれたら「叱る」は正解? あなたと愛ブヒ、赤の他人が本当の家族になるための鉄則3つ
愛ブヒを本当の意味で幸せにできる飼い主になるためには、オーナーが犬にとって頼れるリーダーになることが何より重要。
そこで国際的なドッグトレーナーのライセンスを取得している大久保羽純さんに、“愛ブヒから信頼されるリーダーになる方法”を学ぶ、この特集。
今回のテーマは、「愛ブヒに噛まれてしまったら」どうするのが正しいかを学びます。ガブッ! とやられたあと絶対やってはいけないこととは……!?
目次
愛ブヒに、噛まれてしまったら。
大切な愛ブヒに噛まれてしまったら… 家族は、とてもビックリして、ショックを受けることでしょう。
愛ブヒ側も、大好きな家族に向かってナイフを振りかざす状況になってしまって、とても辛いはず。
家族に対しての愛ブヒの噛みつきのお話は、すでに2回にわたってお伝えしました(過去記事:【家族への噛みつき:対策編】まずやるべきは、トレーニングより「環境作り」です!愛ブヒが「噛む状況」を作らないためのテクニック など)。
愛ブヒのココロに寄り添い、予防する対処法については、特集「わたしは、愛ブヒのリーダーになるのダ。」内にある以前のコラムを読んでみてくださいね。
今回はその第3弾。もしも、愛ブヒのココロを理解していたつもりだったのに、予防していたつもりだったのに、愛ブヒを噛ませてしまったときの対処法のお話です。
噛みつき対策の大前提は、環境設定による予防!
前回までのコラムでお話した、噛みつきに対する考え方の確認をしましょう。
噛みつき対処の大前提は、「噛ませてしまう状況をいかに作らないかという予防」です。
噛まれた後に何かを学ばせるのではなく、噛ませない環境設定をすることが何よりも重要です。
噛ませてしまうことは、人にも愛ブヒにも、誰にも得にはなりません。
繰り返しになりますが、1回目の噛みつきの状況を忘れずに家族で情報を共有して、次は絶対に愛ブヒを同じ状況に追い込まないように守ることこそ、オーナーさんの使命です。
同じ過ちを繰り返さない事は、人間だから出来ることなのです。
しかし、もしも予想しない状況で噛まれてしまったら… そんなときにどうすればいいのか、知っておきましょう。
噛まれてしまったときの対処:やってはダメなこと
噛まれてしまったときに、やってはいけないことを覚えておきましょう。
< ダメその1 >
愛ブヒが噛んだ後に、罰することは絶対にNG。
噛みついた瞬間の愛ブヒの心境は、正当防衛。
愛ブヒは噛む以外の方法がわからない中で追い詰められ、自分を守る手段として噛みついたわけです。
限界だよと泣き叫んでいる子供を追い詰めても、パニックを助長するだけ。オーナーさんへの不信感も募ります。
愛ブヒに「この噛みつきじゃ、オーナーさんに伝わらなかったのかな(泣)」と思わせて、さらに強く噛ませてしまうことになりかねません。
< ダメその2 >
噛む前に歯を見せたり、うなっている愛ブヒを罰することも、絶対にNG。
噛みつくことが信号機の赤なら、うなるのは「これ以上は勘弁してください!」という黄色信号。
大好きな家族を噛みたくないので、自分の意思を伝えるために、うなったり歯を見せたり、顔にしわを寄せたりして必死に「嫌だよ。助けてよ」と表現しています。
その努力を無視して罰するようなら、愛ブヒにはもう泣きながら噛みつく手段しか残っていません。
うなってくれているなら、すぐにその状況を終了して、愛ブヒを助け出しましょう。
結局、罰はダメ。「怒る」と「叱る」の言葉遊びにだまされないで。
少し脱線しますが、「罰」についての世界的な見解の共有をさせてください。
「怒る」と「叱る」は違うという話を聞いたことはありませんか?
「“怒る”ことは感情をぶつけるだけで、相手の事を考えていないからダメだ」とか、「“叱る”ことは相手を思いやった教育だから良いのだ」というような話です。
人間の教育現場では、しばしば議論になることがあるそうですが、動物行動学で、その話題は無関係。
人間側がどんな気持ちと目的で怒ろうが叱ろうが、ブヒたちが「嫌だな。怖いな」と思ってしまえば、どちらも罰です。
「あなたのために叱っているのよ!」なんて高度な話は、愛ブヒには通じません。
親の心、子知らず。怒るも叱るも、ただブヒたちを不安な気持ちにさせるだけです。
正当防衛で噛みついているブヒたちに罰を与えてしまえば、ますますブヒたちは私たちにココロを閉ざしてしまうことでしょう。
結局のところ、人間たちの「叱る」「怒る」の言葉遊びはブヒに通じません。「嫌なことをするヤツ!」と思われるだけで不毛です。
「暴力」や「体罰」も同様で、言葉を選ぼうとも結局のところ「罰」です。
人間側に都合の良い言葉遊びの脳から脱却して、シンプルな快・不快だけのブヒ悩に変わっていくことで、ブヒと円滑にコミュニケーションが出来るようになれるのです。
上下関係理論にだまされないで!
さらに、世界的な情報をもう一つ共有させてください。
「私がなめられているから噛まれるのかな」、「ボスとしてちゃんと罰を与えないといけないのかな」と悩んでいる方、安心してください。そんな悲しい暴力をふるう必要はありません。
現在もまだ日本では間違った犬と人の「上下関係」思想が残っていますが、すでに世界では、犬と人の上下関係の理論は否定されています。
「愛犬からボスと思われるように振舞えば噛みつかれない」とか、「なめられているから噛みつかれるのだ」などという話は過去の産物です。
愛ブヒに噛まれない人がいるとすれば、ボスかどうかは関係なく、2つのパターンで表現できます。
< 噛まれない人2種類 >
(1)噛まないといけないような状況を作らない、安心安全な人。
(2)噛んだらとんでもない仕返しが来そうな、恐い人。
この2つのうち、(2)を考えてみましょう。
例えば皆さんも、とても屈強で暴力的な人から、どんな怖いことをされても、殴り返せませんよね?
反撃してさらに怖い仕打ちを受けるよりも、ただ心を殺して耐える道を選びませんか。
この状況に置かれると「学習性無気力」と言う状態になり、一切の反応をしなくなります。
愛ブヒに嫌なことをしても、反発しなくなりますから「大人しくなった」ように見えます。しかし実際は、ココロが壊れて諦めてしまっている状態です。あまりにも残酷な結果なのです。
これって、素敵なボスでしょうか。いいえ、愛ブヒはこのブラック家族を、ブヒへのパワハラとモラハラで訴訟したいところでしょう。
大切なのは、愛ブヒが困っている時、苦しんでいる時に気付ける素敵な家族になること。
「イヤだよ、助けて」という愛ブヒからの大切なコミュニケーションを罰で潰すことなく、オーナーさんの耳と目と心を研ぎ澄まして、情報をキャッチしていきましょう。
結局のところ、安全安心こそ信頼関係。
愛ブヒのボスになるのではなく、愛ブヒの頼れるオーナーさんになることが、大切な家族の役割です。
家族の絆とは、まさに安心と安全の保障を、愛ブヒの中に貯金のように積み重ねてきた、信頼関係。
犬の正当防衛による武装を解除する鍵は、繰り返し信頼貯金を貯めていき、身の安全を感じてもらう事なのです。
そのために大切なのは、愛ブヒに対して「盗みません。だましません。約束を守ります」の3つを徹底する事。
<盗みません。だましません。約束を守ります>の例
・愛ブヒのオモチャを一方的に取り上げれば、盗んだことになります。
・愛ブヒのオモチャをオヤツと交換で渡してもらう練習をしてきたのに、オヤツを与え忘れてオモチャを取り上げてしまったら、だましたことになります。
・愛ブヒがイヤなときにうなったら、オーナーさんはその以上やらないと約束しているのに、無理矢理進めて噛ませてしまったら、約束を破ったことになります。
愛ブヒがイヤだよと言ったら、すぐにわかってくれるオーナーさんであれば、愛ブヒは噛みつく必要がありません。
自分の身を自分で守らずとも、優しいオーナーさんに守ってもらえている愛ブヒは、正当防衛のために口元のナイフを振りかざすことはありません。
しかしながら、愛ブヒとオーナーさんはもともと赤の他人。失敗してしまうことだって、愛ブヒのSOSサインを見逃してしまうことだってあるでしょう。
愛ブヒとオーナーさんは、何年もかけて試行錯誤を繰り返し、信頼関係を作っていきます。
数年後には、愛ブヒの表現が豊かになり、オーナーさんも愛ブヒの事がよくわかるようになっていきます。
この何年にもわたる歴史こそ、赤の他人が本当の家族になっていくまでの、とても美しく、愛おしい道のりなのです。
噛まれてしまったときの対処:OKなこと。
もしも噛まれてしまった時に出来ることを確認していきましょう。
< OKその1 >
愛ブヒとオーナーさんの安全確保。
これ以上愛ブヒを噛ませないように、苦痛な状況からすぐに退避します。例えば、他の犬を噛んだのなら、すぐにその犬と距離を置いて、安全な場所に避難します。
家の中で抱っこしていて噛まれたのなら、腕の中から降ろして距離を置きましょう。
第二の事件につながらないように、まずは安全確保です。
< OKその2 >
オーナーさんのケガの対処。
その時はショックで痛みを感じないかもしれませんが、まずはよく水洗いをしましょう。犬の歯にはたくさんの雑菌がありますから、傷口を清潔にする必要があります。
外傷がなくとも、必要に応じて、病院で診てもらいましょう。愛ブヒもケガをしている可能性があれば、確認をしましょう。
< OKその3 >
心が落ち着くまで距離を置く。
噛まれることは、オーナーさんにも大きなショックです。オーナーさんの感情がネガティブな方向に高ぶってしまうことがあれば、気持ちが落ち着くまで愛ブヒから距離を置きましょう。
オーナーさんが悲しいのも、怒りたいのも、小さな愛ブヒでは受け止めきれません。
愛ブヒが寄ってきても、心が落ち着かないうちは、距離を取って構いません。
落ち着いて優しい気持ちになれる自信が出てから、愛ブヒと向き合いましょう。
きっと、数日や、それ以上に時間が必要なこともあるでしょう。その場合は、他の家族に愛ブヒのケアを任せたりしながら、無理をしないようにしましょう。
< OKその4 >
事件の詳細を書き出す。家族に共有する。
前回のコラム(【家族への噛みつき:対策編】まずやるべきは、トレーニングより「環境作り」です!愛ブヒが「噛む状況」を作らないためのテクニック)で紹介した家族会議を行いましょう。
詳細な状況を書き出し、事故の再発徹底防止に向けて動き出しましょう。
< OKその5 >
専門家へ相談。
体調不良や痛みによるストレスが原因となり、噛みつきにつながっている場合もあります。動物病院に相談してみましょう。
噛みつきの行動を、家族だけで解決しようとする必要はありません。さらに、もしも血が出るほど噛みついた場合は、ドッグトレーナーなどの専門家の介入が必須だと言われています。
この後に、詳しくお伝えします。
自分で対処するか、専門家に相談するか。
噛みつきの場合は、少しでも早いドッグトレーナーの介入が推奨されています。
しかし動物病院と比べて、ドッグトレーナーなどの専門家と接する機会は無いかもしれません。それゆえ、どんなときに相談していいのかを悩む方が多くいます。
専門家に相談するかどうかのイメージを、水道トラブルと噛みつき事故を比較しながら見ていきましょう。
例:水道が壊れたらしく、水が漏れている。→ 愛ブヒが噛んできた。
水道が壊れた → 愛ブヒが噛んだ。
⇒この状況自体は、オーナーがすぐに判断できる。
具体的に水道管のどこが壊れたのかわかる。→ 愛ブヒがどの状況で噛むのかがわかる。
⇒オーナーがわかるときもあるが、専門家が必要な場合が多い。
水道管の直し方がわかる。→ 噛みつきの治し方がわかる。
⇒「直す方法」自体はネットで調べるなどして、オーナーがわかるときもある。しかし、頭では理解できても、実際にやるとなると難しく、専門家でなければ難しい場合が多い。
家族の安全を守りながら、愛ブヒに倫理的な方法で行動改善をする知識と経験が不可欠。
実際に水道管を直すことが出来る。→ 実際に愛ブヒを噛ませない生活が実現できる。
⇒オーナーが出来ることもあるが、専門家と家族全員の協力体制が必要。
起きている事故が「犬の事」だと思うと、大したことに思えないかもしれません。
しかし、水道管修理だと思えば、専門家に頼んで当たり前だと思いませんか。
皆さんが水道屋さんになる必要はありません。無理やり治そうとして、再発事故を起こす必要はありません。
こじれる前に、少しでも早くプロに相談することは、素晴らしい事なのです。
専門家の選び方
専門家に相談をする際には、かかりつけの動物病院や、ドッグトレーナーなど、まずは身近なプロに聞いてみましょう。
現代では、様々なドッグトレーナーや、動物行動専門の獣医師などもいますから、インターネットで調べて相談してみるのも良いでしょう。
ドッグトレーナーは民間資格のため、技術や主義も様々です。
トレーニングを依頼する前に、カウンセリングなどの時間を設けている場合が多いので、少なくとも3名程度には話を聞いてから、トレーニングを始めましょう。
愛ブヒの代わりに素敵なトレーナーを面接してあげてくださいね。
まとめ
私たち人間と愛ブヒは、まったく別々の種族でありながら、まるで同じ種族のようにココロを通じ合わせて、幸せな家族になっていくことが出来ます。
しかし、通じ合えるからと言って、私たちをすべて理解してと言っても、相手は人間の3歳児程度の可愛い天使です。我々人間の複雑なルールやお願いを、すぐに理解できるわけがありません。
ブヒと言う生き物の、別の種族ならではの感じ方や、理解の仕方を身近で見せてもらえることを楽しみましょう。
ブヒたちとの暮らしで面白いことの一つは、「ブヒの感性の世界」を教えてもらうことです。
噛みつくという1つのコミュニケーションを通して、家族がお互いを見つめ合い、さらに良い家族になっていくまでの大切な1歩1歩を、心より応援しております。
PERRO株式会社 代表取締役 大久保羽純
PERRO株式会社 代表取締役
SUNNY Dog Training Partner代表 大久保羽純
米国CCPDT認定CPDT-KAライセンス所持プロドッグトレーナー
日本とニュージーランドでトレーニングを学び、現在は東京で「犬と人の心をつなぐトレーニング」を広めている。「Happy Dog Training for LOVE & PEACE」をモットーに、しつけ方教室を始め、各種ドッグイベント開催、企業のコンサルティング、行政からの講演依頼、保護活動への協力、東京都動物愛護推進員など、日々犬と人の暮らしを楽しいものにする活動を行っている。
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