【取材】西洋医学の薬は飲まない、好きなものだけ食べさせる。13歳2頭のママが大切にするのは「犬に聞くこと」 #36まっする&ぷりん
10歳を超えても元気なブヒを、憧れと敬意を込めて“レジェンドブヒ”と呼んでいるFrench Bulldog Life。その元気の秘訣をオーナーさんに伺うのが、特集『レジェンドブヒの肖像』です。
今回登場するのは、もうすぐ14歳になるまっするくんと、3ヶ月ほど年下のぷりんちゃん。性格も身体の状態も全く違いますが、それぞれがとても生き生きと楽しく過ごしています。そこには飼い主の新谷永海香(あらやえみか)さんの大胆かつきめ細やかなケアがありました。しかしそこに至るまでには試行錯誤した日々が存在したのです。
目次
まっするくんのプロフィール
年齢&性別
13歳の男の子(2月1日で14歳)
体重
8.3kg
大好きなこと
ボール遊び(20018年くらいまで)、泳ぐこと
既往歴
・2008年、わずか1歳で肺炎のため5日間の入院。
・2009年に膿皮症発症。
・2015年に急性膵炎で14日間入院。同年、甲状腺機能亢進症発症。
・2015年に椎間板ヘルニア発症。
・2016年に髄膜脳炎で5日間入院(後遺症無く回復、完治)。
・2020年に移行上皮癌(尿道癌)発症(内服薬で経過観察中)。
ぷりんちゃんのプロフィール
年齢&性別
13歳の女の子
体重
9.3kg
大好きなこと
お散歩、お出かけ
既往歴
・2019年に急性膵炎で2日間入院。その後、7日間点滴。
・2020年に泌尿器疾患、急性腎不全(経過観察中)、腎盂腎炎発症(経過観察中)。
まっするくんとぷりんちゃんの関係
まっするくんとぷりんちゃんはたった3ヶ月違い。
年齢が近いのは、お留守番が多いまっするくんが寂しくないようにと、オーナーの新谷さんがすぐに2頭目を探したから。
まっするくんを愛してやまない新谷さんは、“まっするくんとの相性”を一番に仔犬選びをしていました。
しかし、10数ヶ所のブリーダー巡りをしても、まっするくんが反応する子がいなかったそう。
そんな中、「まずは動画で」とあるブリーダーさんから送られてきた映像に、まっするくんが大きく反応したのが、ぷりんちゃんだったのです。
「好みとは違いましたが、私は犬のプロではないから詳しいことはわかりません。
それでまっするがこれだけ反応したこの子に決めようと思ったのです」。
家に来てもブルブル震え、なかなか環境に馴染めなかったぷりんちゃんの心を開いたのもまっするくんでした。
マイペースだけれどとても優しいまっするくん。それがぷりんちゃんにも伝わったのでしょう。
「ぷりんちゃんは私たちに対しては健気なのですが、まっするに対しては別。
まっするは優しいし、ぷりんちゃんのことが大好きなので、譲ってくれるのがわかっているんですよね。
なので犬同士の関係で言えば主導権はぷりんちゃんにあります」。
何でもぷりんちゃんに譲ってしまうというまっするくん。
それを見ていた新谷さんは、心穏やかでなかったこともあったそうです。
「どうしてまっするにそういうことをするの? という気持ちになって、ぷりんちゃんを叱ったこともありました。
でもそうするとまっするが止めに入るんです」。
どこまでもぷりんちゃん思いのまっするくんなのでした。
厳しく指摘されて気づいた「多頭飼い」で気をつけること
犬と一緒に暮らすのが初めてだった新谷さん。お散歩で知り合うベテランオーナーさんたちを見ながら色々学んでいきました。
「ある時、“1頭ずつと分かり合わなければダメ”とベテランのオーナーさんに言われたのです。
“あなたはいつもまっするくんばかり見ていてぷりんちゃんを見ていない”と」。
まっするくんが寂しくないようにと迎えたぷりんちゃん。
新谷さんの頭の中は常に「まっするのために何をしようか」と言うことばかりだったのです。
そのことはぷりんちゃんにも伝わっていたようで、破壊活動などのイタズラも激しくなっていました。
ベテランオーナーさんからの指摘でぷりんちゃんへの後悔が生まれ、泣きながら実家に電話をしたという新谷さん。
するとお母様からも厳しい言葉が返ってきました。
「“愛しているならぷりんちゃんを手放してちゃんと見てくれる里親さんを探しなさい。
愛があるから手放せないのではなくて、まっするくんのために手放せないだけでしょう?”と言われたのです。
理にかなっていると思いました」。
厳しいけれど、愛あればこその指導です。そこで1週間じっくり考えた新谷さんは気持ちを固めました。
「そのあとは1頭ずつしっかり向き合おうと心に決め、2年くらい1頭ずつお散歩をしていました」。
多頭飼いでも1頭1頭と向き合うこと。
当たり前のことが当たり前にわかった出来事でした。
「自分で治せ」の言葉で薬だけに頼らない健康法に目覚める
まっするくんは1歳半くらいから色々な病気をしています。
その都度入院や投薬をしてきたのですが、あることをきっかけに健康への考え方も変化しました。
2015年、7歳で膵炎を患ったまっするくん。飲むべき薬の種類は11種類にもなっていました。
膵炎の診断から3ヶ月後、後ろ足がプルプルしてきて「ヘルニア」の診断がされた時、さらにステロイドの投薬を勧められたのです。
「この状態でステロイドなんて、死んでしまう! と思いました。でも薬を飲まなくても死んでしまう…と」。
たまたまその日からご実家に帰省する予定があった新谷さんは、7日分の薬を持って帰ったのですが、そこで衝撃の事件が起きます。
「父が“今日から飲むな!”と言って薬を全部燃やしてしまったんです」。
お母様の「手放せ」も衝撃でしたが、薬を燃やす大胆な行動にも驚きです。
ですがここでも大きな気づきがありました。
「“犬が嫌がっている、自然治癒力を大切にしろ”と言われました。
“自分で治そうとする気持ちがなかったら治らないんだ。人間だってそうだろう”と」。
結局1週間薬を飲まないでいても大丈夫だったことから、その後も思い切って西洋医学の薬をやめる決断をした新谷さん。
それからは漢方薬中心の服用と免疫力・自然治癒力を高めることに力を入れています。
鍼灸とフィットネスの効果
現在は鍼灸を月2回、フィットネスを月2回というペースで通っています。
まっするくんは10歳から、ぷりんちゃんは12歳から開始し、まっするくんはそのおかげで抜け落ちてしまっていた毛がまた生えたのだそうです。
「高齢になると対処療法ではどんどん薬を追加していきますが、西洋医学も分かりつつ東洋医学をやられている先生だと漢方も使ってくれるので安心です」。
フィットネスもそれぞれに合わせた別メニューで行っており、1回につきトータルで1時間ほど。
フィットネスをすることで姿勢が良くなった、筋肉の使い方が良くなった、開いている足(O脚)が綺麗になったなどの効果を感じているそうです。
「シニアでも本人が“行きたい”というので続けています。泳ぐのもトレーナーさんのことも大好きで、とても喜ぶんですよ。
このような方法に切り替えてから自然治癒力が高まったと感じています」。
お金をかけるというより、好きだからやる。
犬たちはどうしたいのか? 何が好きで何が嫌いなのか?
他の家庭がどうということではなく、自分たちはどうしたらHappyなのかを軸に考えることが大切なのでしょう。
「以前は薬を飲んでくれないとパニックでした。“何で飲まないの? 飲まないと死んじゃう!”と。
しかしこれは“薬を飲まないとダメ”という人間の思い込みです。
ネットで情報を集めてその結果に振り回されるのではなく、大切なのは自分の頭で考えることですよね」。
食事も「楽しい」の連鎖が大切
「楽しい」をとても大切にしている新谷さん。
「私が好奇心旺盛なので、それを見て犬たちも“自分たちも楽しい”と思って欲しいですし、実際にそうなっていると思います。“楽しい”の連鎖ですね」。
それは食事への考え方にも反映されていました。
1歳頃まではブリーダーさん推奨のフード、2歳からはドッグフードを色々試し始めます。
そしてこの頃豚バラのおやつを丸呑みして救急病院へ行ったことがきっかけで、手作り食に目覚めます。
「“このタイプの子にそんなおやつを丸ごと与えるなんて!”と獣医さんに怒られたんです。そういうことも知らなくて」。
そうして3歳位〜7歳位の青年期には完全手作り食となりました。
完全手作り食となると色々な計算が大変なのではと思う人もいるかと思いますが、新谷さんはその思い込みも取り払ったそう。
「魚が好きなので魚ベースでさつまいも、キャベツなどを追加して1週間分くらいを作って冷凍していました。特に参考にしたものはありません」。
ではどのようにして食材を決めていったのでしょうか。
それはとてもシンプルな方法で、「ふたりが好んで食べるものは何か?」を感覚的につかんでいったのです。
「ネットや誰かから聞いた“これがいい”を思い込みで与えても、それは自分の犬にとっても“いい”とは限らない。
これも母に言われた言葉なのですが」。
食べさせてはいけないもの以外はどんどん試し、そうやって“喜んで食べてくれるもの”を見つけていきました。
一緒にいる時間を楽しむための食事なのだから本人に「何がいい?」って聞くというのは確かに当たり前のような気がします。
「これが体にいいから、ではなく“美味しい美味しいと食べてくれるもの”が一番だと思います。
もちろん与えてはいけない食材は抜かして、ですけれどね」。
大切にしていること
色々なことを経験し、試行錯誤して自分たちのベストを作り上げてきた新谷さんに、改めて“大切にしていること”を伺いました。
「悪いことを考えるより“今”を大切にすることです。
そして何をするにしても“犬に聞く”こと。
また、“可愛い”だけで終わらせないために、限られた時間と労力の中心をどこに注ぐかもしっかりと考えないといけません。
でも、うまくいかなくても“そんな時もあるさ”でいいと思っています。
そして、ネット情報によって心配と不安の本質が見えなくなることがないように、自分のできることをやるようにしています」。
初めての犬との暮らしで、試行錯誤を繰り返した日々。
厳しい指摘をされてもそれを素直に受け止め、考え、自分自身のものにしてきた新谷さん。
ぶれない“私たちの在り方”と幸せの形がありました。
取材・文/Roco
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